アスベストとグラスウール、その違いを正しく理解していますか?

ご自宅のリフォームや所有物件の解体を計画する際、「アスベスト」という言葉に不安を感じたことはありませんか?見た目が似ているためによく混同される「グラスウール」との違いを、あなたは正しく説明できるでしょうか。これらは名前も見た目も似ていますが、その性質、特に人体への安全性において、天と地ほどの差がある全くの別物です。アスベストは過去に広く使われた危険な建材であり、そのリスクは今もなお多くの古い建物に潜んでいます。一方で、グラスウールは現在主流となっている安全な断熱材です。この二つの違いを正確に理解することは、あなたとご家族、そして関係者の健康を守り、安心して工事を進めるための第一歩です。この記事では、その決定的な違いを専門的な視点から、誰にでも分かりやすく解説していきます。
古い家のリフォームや解体で不安を感じる方へ
1970年代、80年代に建てられた家をリフォームしようとした時、壁の向こう側や天井裏に何が使われているか、考えたことはありますか?「もしかしたら、うちにもアスベストが…?」という漠然とした不安は、工事計画そのものを躊躇させる大きな要因になり得ます。費用はどれくらいかかるのか、どんな業者に頼めばいいのか、そもそも本当に危険なのか。情報が溢れる中で、何が真実かわからなくなりがちです。特に小規模な事業者様にとっては、法規制への対応も大きな課題でしょう。その不安、私たちもよく理解しています。
この記事でわかること:安全性から業者選びまで網羅
- アスベストとグラスウール、ロックウールの性能・安全性の決定的な違い
- なぜアスベストが危険で、グラスウールが安全とされる科学的根拠
- ご自身の建物にアスベストが使われているかを確認する実践的な方法
- アスベストが疑われる場合の正しい初期対応と、専門家による調査・除去の流れ
- リフォーム・新築で最適な断熱材(グラスウール・ロックウール)を選ぶための比較ポイント
【比較表】アスベスト・グラスウール・ロックウールの違いが一目でわかる
アスベスト、グラスウール、そしてもう一つよく比較される「ロックウール」。これらはすべて繊維状の建材であり、断熱性や耐火性に優れるという共通点から、しばしば混同されます。しかし、その原料、製造方法、そして最も重要な「安全性」には明確な違いがあります。特にリフォームや解体を検討している方にとって、これらの違いを正確に把握することは極めて重要です。アスベストは天然の鉱物、グラスウールはリサイクルガラス、ロックウールは玄武岩などの鉱物から作られる人造繊維です。この原料の違いが、人体への影響の差に直結しています。次の表では、それぞれの性能、安全性、コストなどを項目別に整理し、その違いが一目で理解できるようにまとめました。ご自身の状況に合わせて、どのポイントを重視すべきかを確認しながらご覧ください。
性能・安全性・コストの比較一覧
項目 | アスベスト (石綿) | グラスウール | ロックウール |
---|---|---|---|
主原料 | 天然の鉱物(蛇紋石、角閃石など) | リサイクルガラス | 玄武岩、鉄鋼スラグなど |
繊維の太さ | 極めて細い (0.02~0.35μm) | 比較的太い (4~9μm) | 比較的太い (3~10μm) |
発がん性 (IARC評価) | グループ1 (発がん性あり) | グループ3 (発がん性に分類されない) | グループ3 (発がん性に分類されない) |
人体への影響 | 肺に突き刺さり、肺がんや中皮腫の原因となる。体内で分解・排出されにくい。 | 太く脆いため体内に吸収されにくく、万が一吸入しても大半が排出される。 | グラスウールと同様、体内に吸収されにくく、大半が排出される。 |
現在の規制 | 2006年以降、原則として製造・使用が全面禁止 | 規制なし。現在主流の断熱材。 | 規制なし。広く使用されている。 |
断熱性能 | 高い | 高い(密度による) | 高い(密度による) |
耐火・耐熱性 | 非常に高い (500~1000℃) | 比較的高い (約350~400℃) | 高い (約650~700℃) |
コスト | (過去は安価だった) 除去費用は高額 | 安価 | グラスウールよりやや高価 |
そもそもアスベスト(石綿)とは?禁止された危険な建材
アスベスト(石綿)とは、天然に存在する繊維状ケイ酸塩鉱物の総称です。その名は「消すことができない」「不滅のもの」を意味するギリシャ語に由来し、その名の通り、極めて優れた耐熱性、耐久性、耐薬品性、絶縁性などを誇ります。さらに、安価で加工しやすかったことから、かつては「奇跡の鉱物」ともてはやされ、建材をはじめとする3,000種以上の工業製品に幅広く利用されてきました。特に、吹付け材、断熱材、保温材、スレート材、ブレーキパッドなど、私たちの生活の身近なところで活躍していました。しかし、その輝かしい功績の裏で、恐ろしい健康被害のリスクが潜んでいたのです。アスベストの繊維は非常に細かく、目に見えないレベルで空気中を浮遊します。これを吸い込むと、肺の奥深くに突き刺さり、数十年という長い潜伏期間を経て、肺がんや悪性中皮腫といった深刻な病気を引き起こすことが明らかになりました。この極めて高い発がん性のため、現在ではその製造や使用が法律で厳しく禁止されています。
アスベストの主な種類と特徴
アスベストは大きく分けて「蛇紋石(じゃもんせき)族」と「角閃石(かくせんせき)族」の2種類に分類されます。日本で使われたアスベストの9割以上は、蛇紋石族に属する「クリソタイル(白石綿)」です。これは比較的柔軟な繊維で、セメント製品などに多く使われました。一方で、より危険性が高いとされるのが角閃石族のアスベストです。代表的なものに「クロシドライト(青石綿)」や「アモサイト(茶石綿)」があり、これらは硬く鋭い針状の繊維が特徴です。特にクロシドライトは発がん性が極めて高く、主に高圧の配管などに使われた吹付け材に多く含まれていました。これらの種類によって危険度が異なるとはいえ、どのアスベストも人体に有害であることに変わりはありません。
なぜ過去に広く使われたのか?その歴史的背景
アスベストがなぜこれほどまでに広く使われたのか、その背景には高度経済成長期があります。1950年代から1990年代にかけて、日本は建設ラッシュに沸きました。ビル、工場、住宅が次々と建てられる中で、安価で高性能な建材が大量に必要とされました。アスベストは、まさにそのニーズに応える夢のような素材でした。耐火性、断熱性、防音性に優れ、どんな素材にも混ぜやすく、コストも安い。ビルを火災から守るための鉄骨耐火被覆材として、また住宅の断熱材や屋根材として、その使用は瞬く間に広がりました。当時はその健康リスクが十分に認識されておらず、むしろ火災や騒音から人々を守る「優れた建材」として積極的に採用されていたのです。危険性が社会問題化し、規制が段階的に強化されるまで、長きにわたり日本の建築を支え続けたという歴史があります。
グラスウールとは?現在主流の安全な断熱材
一方、グラスウールは、アスベストの代替品として、また現代の建築において最も一般的に使用されている断熱材の一つです。その名の通り、ガラスを主原料とする繊維状の素材で、見た目が綿のようにフワフワしていることから「ガラスの綿」と呼ばれます。アスベストと見た目が似ているため不安に思う方もいらっしゃいますが、その成分や性質は全く異なり、安全性も確立されています。グラスウールは、優れた断熱性能を持ちながらもコストが安く、施工もしやすいため、木造住宅から鉄筋コンクリートのビルまで、あらゆる建物の壁、天井、床に充填され、快適な室内環境づくりに貢献しています。また、不燃性であるため火災に強く、万が一の際にも燃え広がりにくく、有毒ガスを発生させないという大きなメリットもあります。アスベスト問題以降、建材の安全性に対する意識が高まる中で、グラスウールはその性能と安全性の両面から、現在の建築業界で不動の地位を築いているのです。
グラスウールの原料と製造方法
グラスウールの主原料は、80%以上がリサイクルされたガラスです。私たちが普段廃棄しているガラス瓶などが、新たな建材として生まれ変わっています。このリサイクルガラスを高温の炉で溶かし、遠心力などを利用して細かく引き伸ばすことで、非常に細いガラス繊維が作られます。このプロセスは、綿あめを作る工程によく似ています。出来上がった無数のガラス繊維に、接着剤(バインダー)を吹き付けて絡み合わせ、熱を加えて固めることで、私たちがよく目にするマット状やボード状のグラスウール製品が完成します。この製造方法により、繊維の内部に無数の空気の層が作られ、これが熱の伝わりを妨げることで高い断熱性能を発揮するのです。アスベストが天然の鉱物を砕いて作るのに対し、グラスウールはガラスを溶かして作る「人造繊維」である点が根本的な違いです。
断熱材としての主な用途とメリット
グラスウールは、その優れた特性から非常に幅広い用途で活躍しています。最も一般的なのは、住宅やビルの壁、天井、床などに充填する「断熱材」としての役割です。これにより、夏は外の暑さを、冬は外の寒さを遮断し、冷暖房の効率を高めて省エネルギーに貢献します。また、繊維が複雑に絡み合った構造は音を吸収する効果も高く、「吸音材」としても利用されます。例えば、映画館の壁や住宅の防音対策にもグラスウールが使われています。
主なメリットは以下の通りです。
- 高い断熱性・保温性:快適な室温を保ち、光熱費を削減します。
- 優れたコストパフォーマンス:他の断熱材と比較して安価です。
- 不燃性:火災に強く、燃え広がりにくいため安全です。
- 高い吸音性:外部の騒音や室内の音漏れを軽減します。
- 施工のしやすさ:軽量でカッターなどで簡単に切断できます。
最も重要な違い:健康への影響と発がん性の有無

アスベストとグラスウールについて語る上で、避けては通れない、そして最も理解しておくべき点が「健康への影響」、特に「発がん性の有無」です。この二つの素材が決定的に異なるのは、まさにこの点にあります。見た目が似ているからといって、同じように危険視するのは大きな誤解です。なぜアスベストは使用が禁止されるほど危険で、グラスウールは安全な建材として広く使われ続けているのか。その理由は、繊維の太さ、形状、そして体内に吸い込んでしまった後の挙動に科学的な根拠があります。アスベストの繊維は極めて細く、鋭利な針のような形状をしています。これが呼吸によって肺の奥深くまで到達し、組織に突き刺さったまま分解されることなく長期間残留します。この物理的な刺激が細胞を傷つけ続け、長い年月を経て肺がんや悪性中皮腫といった、治療が非常に困難な病気を引き起こすのです。一方で、グラスウールの繊維はアスベストに比べてはるかに太く、仮に吸い込んだとしても、そのほとんどは鼻や気管支で捕捉され、体外に排出されます。万が一、肺の奥まで到達したとしても、体液に溶けやすい性質を持っているため、比較的短期間で分解・排出されることがわかっています。この「体内に残留し続けるか、排出されるか」という違いが、両者の安全性を分ける決定的な要因なのです。
アスベストの深刻な健康被害:肺がん・中皮腫のリスク
アスベストが引き起こす健康被害は、非常に深刻かつ潜伏期間が長いのが特徴です。アスベストを吸い込んでから発症するまで、15年から50年という非常に長い時間がかかります。そのため、過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方や、アスベストが飛散する環境にいた方が、何十年も経ってから突然発症するケースが後を絶ちません。代表的な疾患には以下のものがあります。
- 悪性中皮腫:胸膜や腹膜などにできる、極めて悪性度の高いがんです。アスベスト曝露との関連が非常に強く、「アスベストによる職業病」の代表格とされています。
- 肺がん:アスベストは肺がんのリスクを約5倍に高めると言われています。さらに、喫煙者がアスベストを吸い込むと、そのリスクは相乗効果で約50倍にも跳ね上がることが知られています。
- 石綿肺(じん肺):肺が線維化して硬くなり、呼吸機能が低下する病気です。息切れや咳が主な症状で、進行すると呼吸不全に至ります。
これらの病気は、いずれも治療が難しく、生活の質を著しく低下させます。だからこそ、アスベストの飛散を未然に防ぐことが何よりも重要なのです。
グラスウールの安全性:国際がん研究機関(IARC)の評価
グラスウールの安全性は、WHO(世界保健機関)の専門機関である「国際がん研究機関(IARC)」によって科学的に評価されています。IARCは、様々な物質や要因の発がん性を評価し、そのリスクに応じてグループ分けをしています。
- グループ1:人に対して発がん性がある(例:アスベスト、タバコ、アルコール飲料)
- グループ2A:人に対しておそらく発がん性がある
- グループ2B:人に対して発がん性がある可能性がある
- グループ3:人に対する発がん性について分類できない(例:グラスウール、ロックウール、コーヒー、お茶)
- グループ4:人に対しておそらく発がん性はない
この評価において、アスベストは最もリスクの高い「グループ1」に分類されています。これは、人に対する発がん性が明確に証明されていることを意味します。一方で、私たちが現在使用しているグラスウールやロックウールは「グループ3」に分類されています。これは「人に対する発がん性物質として分類できない」ことを示しており、コーヒーやお茶などと同レベルの、極めてリスクの低いカテゴリーです。この公的機関による評価が、グラスウールの安全性を裏付ける強力な根拠となっています。
繊維の太さと体内への影響の違いが安全性の鍵
なぜこのような評価の違いが生まれるのでしょうか。その鍵は「繊維の太さ」にあります。IARCが「呼吸によって吸入され、肺の奥深くまで到達する可能性のある繊維」と定義しているのは、直径が3マイクロメートル未満、長さが5マイクロメートル以上、そして長さと直径の比が3:1以上の繊維です。アスベストの繊維は直径0.02~0.35マイクロメートルと非常に細く、この定義に完全に合致し、容易に肺の深部(肺胞)まで到達してしまいます。しかし、現在のグラスウールの繊維は直径が4~9マイクロメートルと太く、この定義から外れます。そのため、呼吸器系の防御機能によって、肺の深部に到達する前にほとんどが捕捉・排出されるのです。
【実践編】アスベストとグラスウールの見分け方
では、実際に自分の家にある断熱材がどちらなのか、どうやって見分ければいいのか? これは、リフォームや解体を控えた方にとって最も気になる点でしょう。特に古い建物の場合、その不安は切実です。専門家でなければ100%の断定はできませんが、ご自身でできる初期段階のチェック方法がいくつかあります。これらのステップを踏むことで、専門家へ調査を依頼すべきかどうかの判断材料になります。ただし、これから紹介する方法はあくまで簡易的な目安です。特に、吹付け材のように飛散しやすい状態でアスベストが使われている可能性がある場合は、絶対に自分で触ったり崩したりしないでください。安全を最優先し、少しでも疑わしいと感じたら、すぐに専門の調査会社に相談することが鉄則です。ここでは、安全な範囲で確認できる3つのステップと、最も重要な注意点について解説します。
ステップ1:建物の築年数を確認する(1975年以前は要注意)
最も簡単で重要な判断基準が「建物の築年数」です。日本におけるアスベストの使用は、その危険性が明らかになるにつれて段階的に規制が強化されてきました。大まかな目安として、以下の年代を参考にしてください。
- ~1975年:アスベスト含有の吹付け材が原則禁止される前。特に鉄骨の耐火被覆などで、最も危険性の高いアスベストが使用された可能性が高い年代です。
- ~1995年:アスベスト含有の保温材や断熱材が原則禁止される前。
- ~2006年:アスベスト含有率が0.1重量%を超える製品の製造・使用が全面禁止される前。スレート屋根材などに含まれている可能性があります。
もしご自宅や対象の建物が2006年以前、特に1975年以前に建てられたものであれば、アスベストが使用されている可能性を念頭に置いておく必要があります。
ステップ2:見た目の特徴で判断する(写真で比較)
天井裏や壁の内部を確認できる場合、見た目からもある程度の推測が可能です。(※安全が確保できる場合に限ります)
- アスベスト(吹付け材):綿あめ状やパテ状で、色は青、茶、灰色、白など様々です。経年劣化でボロボロと崩れやすく、繊維が非常に細かいのが特徴です。表面が固められている場合もあります。
- グラスウール:黄色や白色が一般的で、ガラス特有の光沢がキラキラと見えることがあります。繊維一本一本が比較的太く、チクチクとした感触があります。新品はきれいにロール状やボード状になっています。
- ロックウール:灰色や黄褐色で、グラスウールよりも暗い色合いが多いです。見た目はグラスウールに似ていますが、よりゴワゴワした感触です。
ただし、アスベストはセメントなどに混ぜ込まれていることも多く、見た目だけでの判断は非常に困難です。あくまで参考情報と捉えてください。
ステップ3:設計図書や仕様書を確認する
もし建物を建てた際の設計図書や仕様書が手元にあれば、使用された建材のリストを確認してみましょう。「石綿」「アスベスト」といった記載や、アスベスト含有が知られている特定の製品名(例:「アモエース」「サーモテックス」など)がないかチェックします。これも確実な情報源の一つです。
自己判断は危険!最終的には専門家による調査が必要
これまで紹介した方法は、あくまで「可能性」を探るためのものです。アスベスト含有の有無を最終的に確定させるには、専門家による現地調査と、採取した試料の分析が不可欠です。特に、アスベストは目に見えないほど細かく、安易に触れると飛散させてしまい、自分自身だけでなく周囲にも健康被害を及ぼす危険性があります。「たぶん大丈夫だろう」という自己判断は絶対に避けてください。少しでもアスベストの可能性があると感じたら、必ず資格を持った専門の調査機関や除去業者に相談しましょう。それが、安全を確保するための最も確実で正しい方法です。
もしアスベストが疑われる場合…正しい対処法と調査・除去の流れ
ご自身の建物でアスベストの可能性があると判断した場合、パニックになる必要はありません。しかし、迅速かつ適切な対応が求められます。間違った行動は、アスベストを飛散させ、状況を悪化させる可能性があります。ここからは、アスベストが疑われる場合に取るべき具体的なステップを、初期対応から専門家による調査、そして除去工事までの流れに沿って解説します。このプロセスを理解しておくことで、いざという時に落ち着いて行動でき、安全かつスムーズに問題解決へと進むことができます。重要なのは、「自分で何とかしようとしない」こと。アスベストの取り扱いは法律で厳しく定められており、専門的な知識と技術、そして適切な装備が必要です。費用や期間についての不安もあるかと思いますが、まずは安全確保を最優先に行動しましょう。補助金制度を設けている自治体も多いため、それらも視野に入れながら計画を進めることが可能です。
初期対応:絶対に触らず、飛散させない
アスベストが疑われる箇所を発見した場合、まず守るべき鉄則は以下の2点です。
- 触らない、崩さない:材質を確認しようとして手で触ったり、工具で崩したりするのは最も危険な行為です。衝撃を与えることで、アスベスト繊維が空気中に飛散してしまいます。
- 立ち入りを制限する:可能であれば、その部屋やエリアへの立ち入りを禁止し、ドアを閉めてビニールシートなどで目張りをするとより安全です。換気扇やエアコンの使用も控えましょう。
現状を維持し、アスベスト繊維を飛散させないことが、被害を最小限に食い止めるための鍵となります。
専門業者による調査(サンプリング分析)の依頼
初期対応を終えたら、速やかに専門の調査会社に連絡します。調査の専門家は、まず建物の図面や築年数から使用されている可能性のある建材を特定します(事前調査)。その後、現地で疑わしい箇所から慎重に試料(サンプル)を採取します。この際も、周囲に飛散しないよう、湿潤化させるなどの厳重な措置が取られます。採取された試料は分析機関に送られ、顕微鏡などを用いてアスベストが含まれているか、またその種類や含有率を特定します(分析調査)。この分析結果をもって、アスベストの有無が法的に確定され、後の除去計画の基礎となります。
除去工事の主な工法とプロセス
分析の結果、アスベストの含有が確認された場合、その飛散性のレベルに応じて除去工事の工法が決定されます。工法は大きく分けて3つあります。
- 除去工法:アスベスト層を完全に取り除く最も根本的な方法です。
- 封じ込め工法:アスベスト層の上から薬剤を吹き付け、繊維が飛散しないように固めてしまう方法です。
- 囲い込み工法:アスベスト層を板状の材料で完全に覆い、室内空間と隔離する方法です。
工事の際は、作業場所をビニールシートで完全に隔離し、負圧除じん機で内部の気圧を下げてアスベストが外部に漏れないようにします。作業員は専用の防護服と呼吸用保護具を着用し、厳格な安全管理のもとで作業を進めます。
アスベスト調査・除去にかかる費用の目安
費用は、アスベストの種類、場所、面積、工法によって大きく変動します。あくまで一般的な目安ですが、調査費用は数万円から、除去費用は数平方メートルの小規模なものでも20万円~、広い面積になると100万円以上かかることもあります。正確な費用は、必ず複数の専門業者から見積もりを取り、内容を比較検討して判断しましょう。多くの自治体で調査や除去に関する補助金制度が設けられているため、工事を依頼する前に必ずお住まいの自治体に問い合わせてみることをお勧めします。
リフォーム・新築で断熱材を選ぶ際のポイント:グラスウールとロックウールの性能比較
アスベストの問題をクリアし、いざリフォームや新築で断熱材を選ぶ段階になったとき、主な選択肢となるのが「グラスウール」と「ロックウール」です。どちらもIARCの評価で安全性が確認されている人造鉱物繊維断熱材ですが、それぞれに異なる特徴があります。どちらが優れているというわけではなく、建物の構造、求める性能、そして予算に応じて最適な選択をすることが重要です。例えば、コストを最優先するのか、それとも耐火性や防音性をより重視するのか。また、施工のしやすさや湿気への強さも、建物の寿命を考えると見過ごせないポイントです。ここでは、これからの住まいづくりに役立つよう、グラスウールとロックウールの性能を4つの重要な観点から比較し、それぞれのメリット・デメリットを分かりやすく解説します。この比較を参考に、ご自身のプロジェクトに最適な断熱材を見つけてください。
断熱性能とコストパフォーマンス
断熱性能は、製品の「密度」と「厚み」によって決まります。同じ厚みであれば、密度の高い製品ほど高性能になります。一般的に、グラスウールとロックウールは同程度の密度・厚みであれば、断熱性能に大きな差はありません。しかし、コスト面ではグラスウールの方が安価な傾向にあります。そのため、コストパフォーマンスを重視する場合や、広い面積に施工する場合にはグラスウールが有利と言えるでしょう。
耐火性・耐熱性の違い
どちらも不燃性の材料ですが、耐熱温度には違いがあります。グラスウールが約350~400℃で溶け始めるのに対し、ロックウールは約650~700℃まで耐えることができます。このため、より高い耐火性が求められるキッチン周りや、防火区画などにはロックウールが適しています。一般的な木造住宅の断熱材としては、グラスウールでも十分な耐火性能を持っています。
防音性・吸音性能
防音・吸音性能においても、両者に大きな差はありません。どちらも繊維の間に空気を含む構造が音のエネルギーを吸収するため、優れた性能を発揮します。ただし、一般的にはロックウールの方が繊維がより細かく密度も高いため、特に低音域の吸音性にやや優れると言われています。静かな住環境を特に重視する場合は、ロックウールを検討する価値があるでしょう。
施工性や湿気への耐性
施工性では、軽量で柔らかく、カッターで簡単に切断できるグラスウールの方が扱いやすいとされています。一方、ロックウールは少し硬めで重量もあります。湿気への耐性については、どちらの素材も水分を含むと断熱性能が低下するという共通の弱点があります。そのため、施工時には防湿シートを正しく設置することが不可欠です。ただし、ロックウールの方が撥水性の高い製品が多く、湿気による形状変化が少ないという利点があります。
アスベストとグラスウールに関するよくあるご質問(FAQ)
最後に、アスベストとグラスウールに関して、お客様から特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。これまで解説してきた内容の復習として、また、細かな疑問を解消するためにお役立てください。
Q1. グラスウールを触るとチクチクしますが、アスベストのように体に害はないのですか?
A1. グラスウールのチクチク感は、比較的太いガラス繊維が皮膚に刺さることによる物理的な刺激です。これはアレルギー反応ではなく、洗い流せばすぐに収まります。アスベストのように体内に吸収されて深刻な病気を引き起こすことはありません。ただし、施工時には目や呼吸器を保護するため、マスクやゴーグルの着用が推奨されます。
Q2. 昔のロックウールにはアスベストが混ざっていると聞きましたが、本当ですか?
A2. はい、本当です。1980年頃までに製造された一部の「吹付けロックウール」には、強度を高める目的でアスベストが混ぜられていたことがあります。そのため、古い建物の吹付け材がロックウールのように見えても、アスベスト含有の可能性を疑って専門家による調査を行う必要があります。現在のロックウール製品にはアスベストは一切含まれていません。
Q3. アスベストの調査や除去には、どのくらいの期間がかかりますか?
A3. 期間は対象の規模や状況によって大きく異なります。一般的な戸建て住宅の場合、事前調査から分析結果が出るまでに1~2週間程度。除去工事自体は、範囲にもよりますが数日から1週間程度が目安です。ただし、工事前の準備や行政への届出、工事後の清掃・確認などを含めると、全体で1ヶ月以上かかる場合もあります。詳しくは業者に見積もりを依頼する際に確認しましょう。
Q4. DIYで断熱材の交換を考えていますが、グラスウールなら自分でやっても安全ですか?
A4. グラスウール自体は安全な素材ですが、DIYでの施工は推奨されません。断熱材は、隙間なく正しく施工しないと本来の性能を発揮できず、壁内結露の原因にもなります。また、既存の壁を剥がす際に、予期せぬアスベスト含有建材に遭遇するリスクもゼロではありません。安全と性能を確保するためにも、断熱工事は専門の工務店やリフォーム会社に依頼することをお勧めします。