アスベスト調査の流れを完全ガイド|期間・行政報告まで専門家が徹底解説

この記事の要点

  • アスベスト調査は「書面調査」「目視調査」「分析調査」「結果報告」の4ステップで進めるのが法的に定められた流れです。
  • 2023年10月以降、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による調査が全面的に義務化されています。
  • 調査結果は、一定規模以上の工事で「石綿事前調査結果報告システム」を通じて行政へ電子報告する義務があります。
  • 調査を怠ると厳しい罰則が科されるため、法令を正しく理解し、信頼できる専門業者に依頼することが極めて重要です。
目次

はじめに:アスベスト調査の重要性と本記事でわかること

建築物の解体や改修工事を行う際、今や避けては通れないのが「アスベスト調査」です。かつて「奇跡の鉱物」として多くの建材に使用されたアスベスト(石綿)は、その発じん性・飛散性により、肺がんや中皮腫といった深刻な健康被害を引き起こすことが判明しています。作業員や周辺住民の安全を確保するため、大気汚染防止法や石綿障害予防規則(石綿則)によって、工事前の事前調査が厳格に義務付けられています。

しかし、法改正が頻繁に行われ、「具体的に何から手をつければいいのか」「どのような流れで調査が進むのか」といった疑問を持つ現場管理者や事業者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、アスベスト調査の全体的な流れを、法的な背景から具体的な手順、行政への報告方法まで、網羅的かつ詳細に解説します。この記事を読めば、法令を遵守した適切な調査を遂行するための知識がすべて身につきます。

アスベスト調査の全体像:依頼から報告までの4ステップ

アスベスト調査の全体像:依頼から報告までの4ステップ

アスベスト調査の基本的な流れは、大きく分けて4つのステップで構成されています。このプロセスは、法令で定められた手順であり、どの現場においても遵守する必要があります。全体像を把握することで、各ステップの目的と重要性を理解し、計画的に調査を進めることができます。

以下に、依頼から行政への報告完了までの標準的な4ステップを示します。

  1. ステップ1:書面調査(事前調査)
    まず、設計図書や仕様書、過去の修繕記録などの書類を確認し、アスベスト含有建材が使用されている可能性を洗い出します。これは、現地調査を効率的かつ的確に行うための基礎となる重要な工程です。この段階で、使用されている建材の製品名や製造時期から、アスベスト含有の有無をある程度推測します。
  2. ステップ2:現地での目視調査
    書面調査で得た情報を基に、実際に建築物の現地調査を行います。壁、天井、床、配管の保温材、屋根材などを直接目で見て、書面情報との整合性を確認し、記録にない疑わしい建材がないかをくまなくチェックします。この調査は、必ず有資格者が行う必要があります。
  3. ステップ3:分析調査(試料採取と分析)
    書面調査や目視調査だけではアスベスト含有の有無が判断できない場合、疑わしい建材の一部を採取(サンプリング)し、専門の分析機関で分析します。この分析によって、アスベストの有無と種類が科学的に確定されます。なお、分析を行わずに「アスベスト含有あり」とみなして(みなし措置)、次の除去工程に進むことも可能です。
  4. ステップ4:調査結果の報告書作成と行政報告
    すべての調査結果をまとめ、法的に定められた形式の報告書を作成します。そして、解体工事の床面積が80㎡以上、または請負金額が100万円以上の改修工事などの場合、GビズIDを利用して「石綿事前調査結果報告システム」から行政へ電子報告を行います。

この一連のアスベスト調査の流れを正確に実行することが、安全な工事と法令遵守の鍵となります。次の章から、各ステップをさらに詳しく掘り下げて解説していきます。

ステップ1:書面調査(事前調査)の具体的な進め方とポイント

書面調査(事前調査)の具体的な進め方とポイント

アスベスト調査の第一歩は「書面調査」です。この段階は、建物の「カルテ」を読み解く作業に例えられます。設計図書や各種記録から、アスベスト含有の可能性がある建材を事前に特定することで、その後の現地調査を効率化し、調査の精度を高めることが目的です。2022年4月の法改正により、すべての解体・改修工事でこの書面調査が義務付けられました。たとえ小規模な工事であっても、省略することはできません。書面調査は、現地調査の前に行うべき必須のプロセスであり、ここでの情報収集が調査全体の質を左右します。調査対象の建築物がいつ建てられ、どのような材料で、どのように改修されてきたのかを把握することが、リスクを正確に評価するための基礎となります。有資格者は、これらの書類から専門的な知見に基づき、アスベスト含有のリスクが高い建材や部位をリストアップしていきます。このリストが、次のステップである現地調査の指針となるのです。

書面調査で確認すべき書類一覧

書面調査の精度は、どれだけ関連書類を網羅的に確認できるかにかかっています。単に設計図を見るだけでなく、建物のライフサイクル全体に関わる記録を多角的にチェックすることが重要です。以下に、確認すべき主要な書類とそのポイントを挙げます。

  • 設計図書(意匠図、構造図、設備図):建材の種類や仕上げ材が記載されています。「岩綿吸音板」「けい酸カルシウム板」などの記載がないか確認します。特に、1960年代から2000年代初頭の建材名には注意が必要です。
  • 仕様書・仕上表:使用されている建材のメーカー名や製品名が具体的に記載されている場合があります。国土交通省が公開している「石綿(アスベスト)含有建材データベース」と照合することで、含有の可能性を判断できます。
  • 竣工図書:設計変更があった場合、実際の施工内容が反映されています。設計図書と合わせて確認することで、より正確な情報を得られます。
  • 過去の工事の記録(修繕・改修履歴):後から追加・変更された建材にアスベストが使われている可能性があります。特に、断熱、耐火、防音を目的とした改修工事の記録は重要です。
  • 材料承認願・ミルシート:実際に現場で使用された建材のメーカーや製品仕様を証明する書類です。これらが見つかれば、非常に信頼性の高い情報源となります。
  • 過去のアスベスト調査報告書:以前に調査が行われている場合、その報告書は最も直接的な情報です。ただし、調査範囲や当時の基準を確認する必要があります。

これらの書類を丹念に読み解き、アスベスト含有が疑われる建材をリストアップし、その場所を図面にプロットしていくことが、書面調査の具体的な作業となります。

設計図書や記録がない場合の対処法

特に古い建物や小規模な建築物では、設計図書などの書類が紛失・保管されていないケースも少なくありません。しかし、書類がないからといって調査義務が免除されるわけではありません。このような場合でも、法令を遵守するために取るべき対処法があります。

まず、建物の所有者、管理者、過去の施工に関わった関係者などへのヒアリングが重要になります。建物の建築時期、過去の改修の有無やその内容について、記憶を基に情報を集めます。例えば、「〇〇年頃に天井を張り替えた」「ボイラー室の断熱工事をした」といった断片的な情報が、調査の重要な手がかりになることがあります。ヒアリング内容は、必ず記録として残しておく必要があります。

書類も情報もなく、アスベスト含有の有無が全く不明な場合は、「不明」として扱います。この「不明」という結果は、「アスベスト含有の可能性がある」と解釈されます。したがって、次のステップである現地での目視調査をより慎重に行い、疑わしい建材はすべて分析調査の対象とするか、「アスベスト含有あり」とみなして(みなし措置)、適切なばく露防止対策や除去措置を講じる必要があります。書類がないことは、調査の難易度を上げますが、安全確保の原則は変わりません。

書面調査における注意点とよくある見落とし

書面調査は丁寧に行う必要がありますが、それでも見落としや誤解が生じる可能性があります。経験豊富な調査者でも陥りがちな注意点を理解しておくことが、調査の精度を高める上で不可欠です。

よくある見落としの一つが、増改築や修繕部分の確認漏れです。当初の設計図書には存在しない部分に、後からアスベスト含有建材が使用されているケースは頻繁にあります。修繕記録が不十分な場合、特に注意が必要です。

また、建材の名称による誤解も注意すべき点です。「ロックウール吸音板」や「スレートボード」といった名称でも、製造時期によってはアスベストが混入されている製品が存在します。製品名だけで「アスベストなし」と判断するのは危険です。必ず製造年月日やメーカー情報を確認し、データベースと照合するプロセスが求められます。

さらに、隠れた部位の存在を忘れてはなりません。天井裏、壁の内部、床下、配管スペースなど、普段目に触れない場所に吹付けアスベストや保温材が使用されていることがあります。設計図書の設備図や断面図を注意深く確認し、隠れたリスクを想定しておくことが重要です。これらの注意点を念頭に置き、多角的な視点で書類を精査することが、信頼性の高い書面調査につながります。

ステップ2:現地での目視調査の方法と注意点

現地での目視調査の方法と注意点

書面調査で作成した「仮説リスト」を手に、いよいよ建物の実地検証に臨むのが「現地での目視調査」です。このステップの目的は、書面調査でリストアップした建材の存在と状態を現地で確認し、さらに書面には記載されていなかったアスベスト含有の疑いがある建材を新たに発見することです。目視調査は、調査者の五感と経験が問われる非常に重要な工程であり、調査の正確性を担保する上で中心的な役割を果たします。有資格者は、建物の隅々まで、天井裏から床下、機械室に至るまで、あらゆる空間に立ち入り、建材を一つひとつ丁寧に確認していきます。建材の見た目、設置場所、設置されている年代などから、アスベスト含有のリスクを判断します。例えば、古いボイラー室の配管に巻かれた灰色の布や、天井の梁に吹き付けられた綿状の物質などは、特に注意深く観察する必要があります。この段階で疑わしいと判断された建材は、写真撮影やマーキングを行い、後の分析調査や報告書作成のための重要な証拠として記録されます。目視調査の質が、最終的なアスベスト除去工事の範囲と方法を決定づけると言っても過言ではありません。

目視調査の範囲と対象建材の特定方法

目視調査を効果的に行うためには、まず調査範囲を明確に定義することが不可欠です。建物を丸ごと解体する場合は、建築物全体が調査範囲となります。一方、オフィスの内装改修のように一部の工事であれば、その工事で影響を受ける可能性のある全ての部屋や区画が対象です。工事の振動や衝撃が伝わる範囲も考慮に入れる必要があります。

調査範囲が定まったら、対象となる建材を特定していきます。有資格者は、以下のようなアスベスト含有の可能性が高い建材に特に注意を払います。

  • 吹付け材:耐火被覆材として梁や柱に、吸音材として天井や壁に施工されている綿状・粒状の材料。最も飛散性が高いレベル1建材の代表例です。
  • 保温材・断熱材:ボイラー本体や配管、空調ダクトに巻き付けられている保温材。板状、筒状、布団状など様々な形状があります。
  • 成形板:天井に使われる岩綿吸音板やけい酸カルシウム板、壁の間仕切り材、屋根材(スレート)、外壁材(サイディング)など、固形化された建材。
  • その他:ビニル床タイル、壁紙の裏打ち紙、煙突の断熱材、シーリング材、Pタイルなど、多岐にわたる建材に含有の可能性があります。

特定は、建材の見た目の特徴(色、質感、形状)、設置場所、そして書面調査で得た建築年代や仕様の情報を組み合わせて行います。経験豊富な調査者は、わずかな違いからでもリスクを嗅ぎ分けることができます。

写真撮影や記録・マーキングの重要性

「記録なくして調査なし」。目視調査において、正確な記録は調査そのものと同じくらい重要です。後から誰が見ても調査内容を正確に再現できるように、徹底した記録管理が求められます。

まず、写真撮影は必須です。アスベスト含有が疑われる建材が見つかった場合、その建材自体のアップ写真と、建物のどの部分にあるかを示す引きの写真をセットで撮影します。写真には、撮影日、場所、建材の種類などを記載した黒板やホワイトボードを一緒に写し込むと、情報の信頼性が高まります。

次に、調査記録の作成です。建物の平面図上に、確認した建材の位置を正確にプロットします。そして、建材ごとにIDを振り、そのIDに対応する形で、建材の種類、状態(損傷、劣化の有無)、寸法、アスベスト含有の可能性の判定結果などを詳細に記録したリスト(調査台帳)を作成します。

最後に、必要に応じてマーキングを行います。これは、後の試料採取や除去工事の際に、対象の建材を誤認しないようにするためです。非アスベスト建材と誤解されないよう、専用のシールやスプレーで印をつけます。これらの記録一式が、最終的な調査報告書の根幹をなす重要な証拠となります。

目視で判断が困難な場合の対応

アスベスト含有建材の中には、非含有の建材と見た目が酷似しているものが数多く存在します。例えば、けい酸カルシウム板や岩綿吸音板は、製造時期によってアスベストの有無が異なり、目視だけで100%正確に判断することは専門家でも不可能です。

このように目視での判断が困難な場合、調査者は2つの選択肢を取ることになります。

  1. 分析調査の実施:最も確実な方法です。疑わしい建材から試料を採取し、専門の分析機関に送って含有の有無を科学的に確定させます。これが次の「ステップ3:分析調査」に繋がります。調査報告の信頼性を担保するためには、原則として分析を行うことが推奨されます。
  2. みなし措置(含有ありとみなす):分析を行わずに、その建材を「アスベスト含有建材」として扱う方法です。分析のための時間やコストを削減できるメリットがありますが、実際にはアスベストが含まれていない場合でも、レベルに応じた厳格なばく露防止対策や除去費用、特別な廃棄物処理費用が発生するため、結果的に総コストが高くなる可能性があります。

どちらの選択をするかは、工期、予算、そして除去対象となる建材の量などを総合的に考慮して、発注者と調査者が協議の上で決定します。

ステップ3:分析調査(試料採取と分析)の詳細

分析調査(試料採取と分析)の詳細

書面調査と目視調査を経て、アスベスト含有の「疑い」が残った建材に対し、白黒をつける最終的な科学的手段が「分析調査」です。このステップは、疑わしい建材の一部を物理的に採取(サンプリング)し、それを専門の分析機関に持ち込んで、顕微鏡やX線を用いてアスベスト繊維の有無と種類を特定するプロセスです。目視では判別不可能な建材に対して、客観的かつ法的に有効な証拠を提供することがこの調査の最大の目的です。例えば、見た目が全く同じ2枚の天井板でも、製造された年が違うだけで片方にはアスベストが含まれている、というケースは珍しくありません。分析調査は、こうした不確実性を排除し、除去工事が必要な建材を正確に特定するために不可欠です。また、アスベストの含有率(重量パーセント)を調べることで、適用される法規制のレベルが変わる場合もあり、適切な除去計画を立てる上でも重要な情報となります。この工程は、試料採取時の飛散防止措置から、信頼できる分析機関の選定、そして分析結果の正しい解釈まで、高度な専門知識と技術が求められる、アスベスト調査における核心部分の一つです。

分析調査が必要となる条件とは

すべての調査で分析が必須というわけではありません。分析調査が必要となるのは、主に以下の条件に当てはまる場合です。

  1. 書面調査・目視調査でアスベスト含有の有無が判断できない場合:設計図書に記載がなく、見た目でも非含有建材と断定できない材料が発見されたとき。これが最も一般的なケースです。
  2. 「みなし措置」を避けたい場合:前述の通り、疑わしい建材を「アスベスト含有あり」とみなして処理することも可能です。しかし、もし実際には非含有だった場合、不必要な高コストの除去・処分費用がかかってしまいます。コストの適正化を図るために、分析によって白黒をはっきりさせたい場合に実施されます。
  3. アスベストの含有率を知る必要がある場合:アスベスト含有率が0.1%を超えるかどうかで、廃棄物処理法上の扱い(特別管理産業廃棄物)や、一部の作業における規制内容が変わることがあります。この含有率を確定させるためには、定量分析が必要となります。

これらの条件に該当する場合、調査者は発注者と協議の上、分析調査へと進みます。分析対象とする建材の種類や箇所、検体数を適切に決定することが、効率的で信頼性の高い調査につながります。

安全な試料採取(サンプリング)の手順と飛散防止措置

分析調査の第一歩である試料採取(サンプリング)は、アスベスト繊維を飛散させるリスクを伴うため、最大限の安全対策を講じながら行う必要があります。これは調査工程の中で最も危険な作業の一つであり、有資格者が適切な手順に則って慎重に進めなければなりません。

基本的な手順と飛散防止措置は以下の通りです。

  1. 作業区画の隔離:サンプリングを行う場所を、プラスチックシートなどで隔離(養生)し、他のエリアに繊維が拡散しないようにします。
  2. 保護具の着用:作業者は、防じんマスク(DS2/RS2以上、レベル1建材の場合は電動ファン付き呼吸用保護具)、保護衣、手袋、ゴーグルを必ず着用します。
  3. 湿潤化:採取対象の建材に、水や飛散防止剤を噴霧器で散布し、湿らせます。これにより、切断や削り取りの際に粉じんが発生するのを大幅に抑制できます。
  4. 試料の採取:カッターやコアドリルなどの手工具を使用し、必要最小限の大きさ(通常は数センチ角)の試料を慎重に切り出します。
  5. 二重梱包:採取した試料は、すぐに湿ったウエスなどで包み、チャック付きのプラスチック袋に入れます。さらに、その袋をもう一枚の袋に入れ、二重に密閉します。袋には採取場所、日時、建材名などを明記します。
  6. 採取箇所の補修:試料を採取した跡は、繊維が飛散しないように、飛散防止剤を塗布したり、専用のテープで塞いだりするなどの補修措置を必ず行います。

これらの手順を遵守することが、作業者自身の安全と、建物内の汚染防止に繋がります。

アスベスト分析方法の種類と特徴

採取された試料は、厚生労働省が定める分析技術の認定を受けた機関で分析されます。分析方法には、主にアスベストの有無を調べる「定性分析」と、含有率を調べる「定量分析」があり、それぞれにJIS(日本産業規格)で定められた手法があります。

定性分析(JIS A 1481-1,2)

定性分析は、「アスベストが含まれているか、いないか」そして「含まれている場合は、どの種類のアスベストか」を特定するための分析です。最も一般的に行われる分析であり、事前調査の報告にはこの結果が必須となります。

JIS A 1481-1(偏光顕微鏡法):建材をほぐし、顕微鏡で観察します。アスベスト特有の光学的性質(色や屈折率など)を利用して、6種類のアスベスト(クリソタイル、アモサイト、クロシドライトなど)の有無と種類を判定します。熟練した技術が必要ですが、迅速に結果が得られる主流の方法です。

JIS A 1481-2(X線回折分析法・位相差分散顕微鏡法):JIS A 1481-1と併用されることが多い方法です。X線回折で結晶構造を分析し、アスベストの存在を確認します。さらに位相差分散顕微鏡を用いて種類を特定します。特に細かい繊維の同定に優れています。

これらの方法を組み合わせて、総合的に含有の有無を判定します。

定量分析(JIS A 1481-4)

定量分析は、「アスベストが何パーセント含まれているか」を重量比(wt%)で測定するための分析です。主に、アスベスト含有率が0.1%を超えるかどうかを判断するために行われます。

JIS A 1481-4(X線回折分析法による定量):試料中のアスベストの量を、X線回折装置を用いて測定します。この結果、含有率が0.1wt%を超える建材は、法律上「石綿含有建材」として扱われ、除去や廃棄物処理において厳格な規制の対象となります。

特に、スレート屋根材などの成形板で、0.1%の基準値付近にあると予想される場合や、廃棄物処理の区分を明確にする必要がある場合にこの分析が選択されます。定性分析で「含有あり」と判定された後、より詳細な情報が必要な際に実施される専門的な分析と言えます。

ステップ4:調査結果の報告書作成と行政への電子報告(GビズID)

ステップ4:調査結果の報告書作成と行政への電子報告(GビズID)

アスベスト調査の最終ステップは、これまでの調査結果を正式な文書としてまとめ、法的な義務を果たすための「報告」です。このステップは、大きく分けて2つの重要な作業から成り立っています。一つは、調査の全プロセスと結果を詳細に記載した「アスベスト事前調査結果報告書」の作成です。この報告書は、工事関係者間でアスベストの存在箇所やレベルを共有し、適切な除去工事計画を立てるための基礎資料となるだけでなく、法令に基づき3年間保存する義務があります。もう一つが、特定の条件を満たす工事において必須となる「行政への電子報告」です。これは、2022年4月1日から導入された制度で、事業者がGビズIDを取得し、「石綿事前調査結果報告システム」を通じて、調査結果を国(労働基準監督署および地方公共団体)にオンラインで届け出るものです。この報告を怠ると罰則の対象となるため、調査の完了とは、この行政報告を済ませて初めて完了すると言えます。この最終ステップを正確に行うことが、法令遵守を証明し、企業の社会的責任を果たす上で極めて重要です。

調査報告書に記載すべき必須項目

アスベスト事前調査結果報告書は、誰が見ても調査内容が明確に理解できるよう、法令で定められた項目を漏れなく記載する必要があります。これは、後の除去工事の安全性を確保し、将来的な参照資料としての価値を担保するためです。主な必須記載項目は以下の通りです。

  • 調査対象工事の概要:工事名称、場所、発注者名、元請業者名など。
  • 調査対象建築物の概要:構造、階数、延べ面積、建築年など。
  • 調査を行った者の情報:調査者の氏名、所属、保有する資格(建築物石綿含有建材調査者など)の種類と登録番号。
  • 調査の期間と方法:書面調査、目視調査、分析調査をそれぞれ実施した期間。
  • アスベスト含有建材の有無:調査の結果、アスベスト含有建材があったかなかったかを明記。
  • (含有建材があった場合)建材の種類と場所:アスベスト含有建材の種類(吹付け材、保温材、成形板など)、レベル区分(レベル1~3)、そしてそれらが存在する具体的な場所(部屋名、部位など)を平面図などを用いて図示。
  • 試料採取・分析の情報:分析調査を行った場合は、試料採取日、分析機関名、分析方法、分析結果を記載。

これらの情報に加え、写真や図面を添付し、視覚的にも分かりやすい報告書を作成することが求められます。

石綿事前調査結果報告システムでの電子申請手順

2022年4月1日以降、以下のいずれかに該当する工事では、元請事業者が「石綿事前調査結果報告システム」を用いて、調査結果を電子報告することが義務付けられています。

  • 建築物の解体工事で、対象となる部分の床面積の合計が80㎡以上
  • 建築物の改修工事で、請負代金の合計が100万円(税込)以上
  • 工作物(特定の条件あり)の解体・改修工事で、請負代金の合計が100万円(税込)以上

電子申請の基本的な手順は以下の通りです。

  1. GビズIDの取得:まだ取得していない場合、まず「GビズID」のウェブサイトから「gBizIDプライム」または「gBizIDメンバー」のアカウントを無料で作成します。取得には数日~2週間程度かかる場合があるため、早めに準備が必要です。
  2. システムへのログイン:環境省が管轄する「石綿事前調査結果報告システム」にアクセスし、取得したGビズIDでログインします。
  3. 新規報告作成:システム上で「新規作成」ボタンを押し、報告フォームに入力していきます。入力項目は、前述の報告書記載項目とほぼ同じです。工事情報、建物情報、調査者情報、調査結果などを画面の指示に従って入力します。
  4. 必要書類のアップロード:調査結果がわかる図面や写真、分析結果報告書の写しなどをPDF形式でアップロードします。
  5. 入力内容の確認と提出:すべての入力とアップロードが完了したら、内容に誤りがないか最終確認し、「提出」ボタンをクリックします。提出が完了すると、労働基準監督署と管轄の地方公共団体に情報が同時に共有されます。

このシステムを利用することで、従来のように複数の窓口に書類を提出する手間が省け、効率的な報告が可能になります。

アスベスト調査に必要な期間の目安

アスベスト調査に必要な期間の目安

アスベスト調査を計画する上で、発注者が最も気になる点の一つが「調査にどれくらいの時間がかかるのか」ということです。調査期間は、解体・改修工事全体のスケジュールに直接影響するため、事前に目安を把握しておくことが非常に重要です。調査期間は、対象となる建築物の規模、構造の複雑さ、図面の有無、そして分析調査の必要性など、多くの要因によって変動します。小規模な戸建て住宅であれば数日で完了することもありますが、大規模なビルや工場となると数週間から1ヶ月以上を要することも珍しくありません。特に、分析調査が必要になった場合、分析機関の混雑状況によっては結果が出るまでに10営業日以上かかることもあり、これが全体のスケジュールを左右する大きな要因となります。したがって、工事の着工日から逆算し、十分な余裕を持った調査計画を立てることが、スムーズなプロジェクト進行の鍵となります。ここでは、各調査ステップにかかるおおよその日数と、調査期間を短縮するためのポイントについて解説します。

各調査ステップの所要日数

アスベスト調査の全体期間は、各ステップの所要日数の合計で決まります。以下に、一般的な目安を示します。

  • ステップ1:書面調査
    期間:1日~5日程度
    建物の規模や保管されている書類の量によります。書類が整理されており、すぐにアクセスできる場合は短時間で済みますが、書類を探すところから始める場合は時間がかかります。
  • ステップ2:現地での目視調査
    期間:1日~7日程度
    戸建て住宅なら1日、小規模なビルで2~3日、大規模な施設になると1週間以上かかることもあります。調査範囲の広さや構造の複雑さに比例します。
  • ステップ3:分析調査
    期間:5日~14日程度(営業日ベース)
    試料を分析機関に送付してから結果が出るまでの期間です。通常、分析レポートが発行されるまでに1~2週間程度を見込むのが一般的です。分析機関によっては、追加料金で短納期に対応する「迅速分析サービス」を提供している場合もあります。
  • ステップ4:報告書作成・行政報告
    期間:2日~5日程度
    調査結果をまとめ、法廷の書式に沿った報告書を作成する期間です。行政への電子報告手続き自体は、慣れていれば数時間で完了します。

これらの期間を合計すると、分析が不要な場合は1週間程度、分析が必要な場合は最短でも2~3週間は見ておく必要があると分かります。

調査期間を短縮するためのポイント

タイトな工期の中で、調査期間を少しでも短縮するためには、発注者側の事前の準備と協力が不可欠です。以下のポイントを実践することで、調査プロセスを円滑に進めることができます。

  1. 関連書類を事前に整理・準備しておく
    書面調査をスムーズに開始できるよう、設計図書、仕様書、過去の修繕記録などをあらかじめ一箇所にまとめておきましょう。書類を探す時間が短縮されるだけで、数日の時間短縮に繋がります。
  2. 調査会社との打ち合わせを密に行う
    工事の目的、範囲、スケジュールを調査会社に正確に伝え、調査計画を共同で策定します。特に、分析が必要になりそうな箇所を事前に共有しておくことで、迅速な対応が可能になります。
  3. 現地調査への立ち会いやアクセス確保
    現地調査の際に、建物の所有者や管理者が立ち会い、鍵の開錠や普段立ち入れない場所(機械室、倉庫など)への案内をスムーズに行うことで、調査時間を大幅に短縮できます。
  4. 迅速分析サービスの利用を検討する
    工期に全く余裕がない場合は、分析機関が提供する迅速分析サービス(例:翌日報告、即日報告)の利用を検討するのも一つの手です。ただし、通常料金よりも割高になる点には注意が必要です。

これらの準備を事前に行うことで、無駄な待ち時間をなくし、効率的な調査を実現できます。

【事例で学ぶ】アスベスト調査の具体的なケーススタディ

これまで解説してきたアスベスト調査の流れは、理論上は明確ですが、実際の現場では建物の規模や用途によって進め方や注意点が異なります。ここでは、より具体的に調査のイメージを掴んでいただくために、対照的な2つのケーススタディを紹介します。一つは、私たちにとって身近な「小規模な戸建て住宅」の解体前調査。もう一つは、より複雑で大規模な「オフィスビル」の改修工事に伴う調査です。これらの事例を通じて、書面調査から現地調査、分析、報告に至るまでの一連のプロセスが、実際の現場でどのように適用されるのかを見ていきましょう。建物の特性が異なれば、調査の難易度や重点を置くべきポイントも変わってきます。これらの事例は、ご自身の状況に近いケースを想定し、調査計画を立てる際の参考になるはずです。経験豊富な調査会社が、どのように状況を判断し、効率的かつ安全に調査を進めていくのか、その実践的なアプローチを感じ取ってください。

ケース1:小規模な戸建て住宅の解体前調査

対象物件:1985年築、木造2階建て、延床面積90㎡の戸建て住宅
依頼内容:建物全体の解体工事に伴う事前調査

調査の流れ

  1. 書面調査:所有者から提供されたのは建築確認通知書のみで、設計図書は紛失。建築年(1985年)から、屋根材や内装材にアスベスト含有の可能性があると想定。
  2. 現地調査:有資格者が現地を訪問。
    • 外観:屋根にコロニアル(スレート瓦)、外壁に窯業系サイディングを確認。いずれも年代的に含有の可能性が高いと判断。
    • 内装:台所の天井に岩綿吸音板らしき建材、浴室の壁にけい酸カルシウム板らしきパネルを発見。
    • その他:給湯器周りの煙突に断熱材(石綿セメント円筒)を確認。
  3. 分析調査:目視で判断が困難だった屋根材、外壁材、天井板、浴室壁パネルの4点から試料を採取。安全措置を講じ、湿潤化の上でサンプリング。
  4. 結果と報告:分析の結果、屋根材と煙突断熱材からアスベスト(クリソタイル)を検出。外壁と内装材は非含有と判明。この結果に基づき、アスベスト含有箇所を図面に明記した調査報告書を作成。解体床面積が80㎡を超えるため、GビズIDを用いて行政へ電子報告を実施。解体業者はこの報告書に基づき、レベル3建材の除去計画を立て、作業届を提出後、工事に着手した。

ケース2:大規模なオフィスビルの改修工事に伴う調査

対象物件:1975年築、鉄骨造8階建て、延床面積5,000㎡のオフィスビル
依頼内容:3階と4階のテナント退去に伴う内装全面リニューアル工事の事前調査

調査の流れ

  1. 書面調査:ビル管理会社から竣工時の設計図書一式と過去の修繕記録を入手。図面から、梁の耐火被覆として吹付けロックウール、機械室の配管保温材、天井の岩綿吸音板の使用が確認された。1975年という築年から、これら全てにアスベスト含有のリスクが極めて高いと判断。
  2. 現地調査:調査範囲を工事対象の3階・4階および、工事の影響が及ぶ可能性のある上下階の天井裏、共用部に設定。
    • 天井裏:点検口から内部を確認し、図面通り梁に吹付け材を発見。劣化状況を確認し、飛散のリスクを評価。
    • 執務室:天井に図面通りの岩綿吸音板、床にPタイルを確認。
    • 機械室:配管のエルボ部分などに保温材を確認。一部に損傷が見られた。
  3. 分析調査:吹付け材(レベル1)、配管保温材(レベル2)、天井板とPタイル(レベル3)のそれぞれから試料を採取。特に吹付け材のサンプリングは、隔離養生を厳重に行い、高性能真空掃除機を併用するなど、最大限の飛散防止措置を講じた。
  4. 結果と報告:分析の結果、すべてからアスベストを検出。この結果を基に、各建材のレベル、場所、数量を詳細に記載した報告書を作成。請負金額が100万円を超えるため、行政へ電子報告。改修工事業者は、レベル1、2、3が混在する複雑な状況に対応するため、専門の除去業者と綿密な作業計画を策定。労働基準監督署への作業計画届の提出など、厳格な手続きを経て工事を開始した。

アスベスト調査に関するよくある質問(FAQ)

アスベスト調査は専門性が高く、法令も複雑なため、多くの疑問が生じがちです。ここでは、事業者様や建物の所有者様から特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. アスベスト調査は、どんな工事でも必ず必要ですか?

はい、原則として建築物の解体・改修工事を行う場合は、工事の規模や金額の大小にかかわらず、すべて事前調査の実施が義務付けられています。たとえ壁に穴を一つ開けるような軽微な作業であっても、その材料にアスベストが含まれていないことを確認する義務があります。調査の結果、アスベスト含有建材が「ない」と判断された場合でも、その調査記録を作成し、現場に備え付け、3年間保存する必要があります。

Q2. 調査にかかる費用は、どのくらいが相場ですか?

調査費用は、建物の規模、図面の有無、分析の要否などによって大きく変動します。あくまで目安ですが、一般的な木造戸建て住宅(延床面積100㎡前後)で、分析調査が不要な場合は5万円~10万円程度、数点の分析が必要な場合は8万円~15万円程度が相場です。大規模なビルや工場になると、数十万円から数百万円になることもあります。正確な費用は、複数の調査会社から見積もりを取って比較検討することをおすすめします。

Q3. 2023年10月から何が変わったのですか?

2023年10月1日から、アスベストの事前調査は、「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ者が行うことが全面的に義務化されました。これ以前は、一定の条件下で無資格者による調査も認められていましたが、現在は資格者による調査が必須です。調査を依頼する際は、必ず担当者が有効な資格を保有しているかを確認する必要があります。これにより、調査の信頼性と専門性がより一層担保されることになりました。Q4. 調査の結果、アスベストが見つかったらどうすればいいですか?

アスベスト含有建材が見つかった場合、その建材の飛散性の高さ(レベル1~3)に応じた適切な措置を講じる必要があります。主な措置は以下の通りです。

  • 除去:アスベスト含有建材を完全に取り除く方法。
  • 封じ込め:建材の表面を薬剤などで固め、アスベストが飛散しないようにする方法。
  • 囲い込み:建材の周りを板などで完全に覆い、物理的に隔離する方法。

どの方法を選択するかは、建材の状態や工事内容によって決まります。除去などの作業は、専門の知識と設備を持つ工事業者が、法令に定められた手順(作業計画の届出、隔離養生、作業員の保護など)に従って行う必要があります。

まとめ:法令遵守と安全確保のために適切なアスベスト調査を

本記事では、アスベスト調査の全体像から、「書面調査」「目視調査」「分析調査」「報告」という4つの具体的なステップ、さらには期間や事例、法改正のポイントまで、網羅的に解説してきました。アスベスト調査は、単なる手続きではありません。それは、工事に関わる作業員、そして周辺に暮らす人々の健康と安全を守るための、極めて重要な社会的責務です。

法改正により、調査は有資格者によって行われることが義務付けられ、その結果は行政へ正確に報告されなければなりません。この一連のアスベスト調査の流れを正しく理解し、一つひとつのステップを確実に実行することが、法令遵守の基本です。そして、信頼できる専門の調査会社をパートナーとして選ぶことが、その成功の鍵を握ります。本記事が、皆様の安全で適法な工事計画の一助となれば幸いです。

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ライター情報

アスベストバスターズ編集部は、アスベスト調査・除去に関する専門的知識を提供する編集チームです。
読者が直面するかもしれない問題に対処し、安全な作業環境を保証するための実用的なアドバイスと正確な情報を提供することを使命としています。アスベストバスターズ編集部は、アスベスト関連の最新情報を分かりやすく解説し、読者に信頼される情報源であり続けることを目指しています。

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