アスベストは、その発がん性などの有害性から世界各国で厳しく規制されています。日本では2006年に労働安全衛生法の改正などにより製造・使用がほぼ全面的に禁止され、建築物の解体・改修工事においても事前の調査や特別な除去作業が義務付けられています。したがって、アスベストの有無によって解体・改修費用や工事の工程が大きく変わるため、事前にアスベスト含有建材の存在を把握しておくことが非常に重要です。
本記事では、国土交通省が公開している「目で見るアスベスト建材」を活用し、建材にアスベストが含まれているかどうかを判別・特定するための具体的な方法をご紹介します。あわせて、同資料をもとに作成したオリジナルのアスベスト含有建材一覧表も掲載していますので、解体・改修工事や建物調査を進める際の参考にぜひご活用ください。アスベストの調査や管理をより効率的かつ安全に行うためのヒントが詰まった内容となっています。
国土交通省「目で見るアスベスト建材」の活用方法
「目で見るアスベスト建材」が公開されたのは2008年3月で現在、第2版が最新版となっています。古い資料ですが、今でも有用で、アスベスト調査分析サービスを提供する我々もよく活用させていただいている資料です。本資料を具体的にどのように活用できるのかをご紹介します。
建物のどこにアスベスト含有建材が使われているかを把握する
「目で見るアスベスト建材」の10, 11ページに記載されているRC造建築物、戸建て住宅におけるアスベスト含有建材の典型的な使用箇所を示した断面図を抜粋します。この断面図を参照することで、アスベスト含有建材が建物のどこに使われることが多いのかを視覚的に把握することが出来るので、建築物のアスベスト調査をより効率的かつ効果的に行うことができます。
RC・S造建築物でのアスベスト含有建材の使用例
- 鉄骨耐火被覆材:吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール
- 天井断熱材:吹付け石綿、石綿含有吹付けバーミキュライト
- 機械室吸音材:吹付け石綿
- 配管エルボ、ボイラーの保温材:石綿含有けいそう土保温材
- 内装材(壁・天井):石綿含有スレートボード、石綿含有ロックウール吸音天井板
- 床材:石綿含有ビニル床タイル、石綿含有ビニル床シート
- 外装材:石綿含有窯業系サイディング、石綿含有押出成形セメント板
- 屋根材:石綿含有住宅屋根用化粧スレート、石綿含有スレート波板
鉄骨梁の耐火被覆、天井の断熱材、外壁材、内装材など、様々な部位でアスベスト含有建材が使用されていることがわかります。
戸建て住宅でのアスベスト含有建材の使用例
- 外壁:石綿含有窯業系サイディング、石綿含有スレートボード
- 軒天:石綿含有スレートボード
- 屋根:石綿含有住宅屋根用化粧スレート
- 内装材:石綿含有せっこうボード、石綿含有パーライト板
- 床材:石綿含有ビニル床タイル
- 煙突:石綿セメント円筒
外壁、屋根、軒天、内装材など、住宅の様々な部分にアスベスト含有建材が使用されていることがわかります。
製造時期からアスベスト含有の可能性を推測する
資料8, 9ページには41種類のアスベスト含有建材ごとの製造時期を示す一覧表があります。アスベスト含有建材の製造時期を知ることで、建築年代からアスベスト使用の可能性を推測できます。
写真でアスベスト含有建材を特定する
41種類の建材ごとに写真付きで、その使用部位と用途、特徴が解説されています。これらの画像を参考にすることで、アスベスト含有建材の表面の質感や色、建材の形状や厚み、施工方法や使用箇所がわかるため、実際の現場でアスベスト含有建材を視覚的に特定、識別する助けとなります。
レベル1: 吹付け石綿の例
アスベストの含有率が高く、飛散性も非常に高いため、最も注意が必要なレベル1に分類される「吹付け石綿」の例です。
天井や壁、鉄骨梁に吹き付けられた吹付け石綿です。表面に凹凸があり、灰白色を呈しています。エレベーターシャフトや機械室、鉄骨造建築物でこの形状の建材があれば、高い確率でアスベストが含まれていると考えられます。アスベスト調査は必須です。
レベル2: 屋根用折板石綿断熱材、煙突用石綿断熱材の例
レベル2建材は、保温材・耐火被覆材・断熱材として利用される建材でレベル1ほどではありませんが劣化や破損時に飛散する可能性が高い建材です。
この写真は屋根用折板石綿断熱材と煙突用石綿断熱材の例です。屋根裏のフェルト状の断熱材や煙突に、写真のような見た目の建材が確認された場合、高い確率で石綿含有建材であることが判別できます。
レベル3: 石綿含有けい酸カルシウム板(ケイカル板)、石綿含有ロックウール吸音天井板の例
レベル3に分類される建材は成形板などその他のアスベスト含有建材です。通常の使用では飛散の可能性は低いですが、解体・改修時には注意が必要です。
この写真は天井に使われた石綿含有ケイカル板、ロックウール吸音天井板です。それぞれの形状や特徴のほか、主な使用部位が示されているため、例えば学校や講堂など音の出る場所の天井は要注意ということがわかります。
アスベスト含有建材一覧表
「目で見るアスベスト建材」を基に41種類のアスベスト含有建材について種類、分類、主な使用部位、製造時期が一覧でわかるオリジナルの表を以下にまとめましたので、ご活用ください。
番号 | アスベスト含有建材の種類 | 分類 | 主な使用部位 | 製造時期 |
---|---|---|---|---|
1 | 吹付け石綿 | レベル1 | 鉄骨耐火被覆、天井断熱材 | 1956~1975 |
2 | 石綿含有吹付けロックウール | レベル1 | 鉄骨耐火被覆 | 1961~1987 |
3 | 湿式石綿含有吹付け材 | レベル1 | 内装材 | 1970~1989 |
4 | 石綿含有吹付けバーミキュライト | レベル1 | 天井断熱材 | ~1988 |
5 | 石綿含有吹付けパーライト | レベル1 | 天井、梁 | ~1989 |
6 | 石綿含有けいそう土保温材 | レベル2 | ボイラー、配管 | ~1980 |
7 | 石綿含有けい酸カルシウム保温材 | レベル2 | ボイラー、配管 | ~1980 |
8 | 石綿含有バーミキュライト保温材 | レベル2 | ボイラー、配管 | ~1980 |
9 | 石綿含有パーライト保温材 | レベル2 | ボイラー、配管 | ~1980 |
10 | 石綿保温材 | レベル2 | ボイラー、配管 | ~1980 |
11 | 石綿含有けい酸カルシウム板第2種 | レベル2 | 鉄骨耐火被覆 | 1963~1997 |
12 | 石綿含有耐火被覆板 | レベル2 | 鉄骨耐火被覆 | 1966~1983 |
13 | 屋根用折板石綿断熱材 | レベル2 | 屋根裏 | ~1989 |
14 | 煙突用石綿断熱材 | レベル2 | 煙突 | ~2004 |
15 | 石綿含有スレートボード・フレキシブル板 | レベル3 | 内外装材、軒天 | 1952~2004 |
16 | 石綿含有スレートボード・平板 | レベル3 | 内外装材 | 1931~2004 |
17 | 石綿含有スレートボード・軟質板 | レベル3 | 内装材 | 1936~2004 |
18 | 石綿含有スレートボード・軟質フレキシブル板 | レベル3 | 内装材 | 1971~2004 |
19 | 石綿含有スレートボード・その他 | レベル3 | 内外装材 | 1953~2004 |
20 | 石綿含有スラグせっこう板 | レベル3 | 内装材 | 1978~2003 |
21 | 石綿含有パルプセメント板 | レベル3 | 内装材 | 1958~2004 |
22 | 石綿含有けい酸カルシウム板第1種 | レベル3 | 内装材、耐火間仕切り | 1960~2004 |
23 | 石綿含有ロックウール吸音天井板 | レベル3 | 天井材 | 1961~1987 |
24 | 石綿含有せっこうボード | レベル3 | 内装材 | 1970~1986 |
25 | 石綿含有パーライト板 | レベル3 | 内装材 | 1951~1999 |
26 | 石綿含有その他パネル・ボード | レベル3 | 内装材 | 1966~2003 |
27 | 石綿含有壁紙 | レベル3 | 内装材 | 1969~1991 |
28 | 石綿含有ビニル床タイル | レベル3 | 床材 | 1952~1987 |
29 | 石綿含有ビニル床シート | レベル3 | 床材 | 1951~1990 |
30 | 石綿含有ソフト巾木 | レベル3 | 床材 | (住宅用ほとんどなし) |
31 | 石綿含有窯業系サイディング | レベル3 | 外装材 | 1960~2004 |
32 | 石綿含有建材複合金属系サイディング | レベル3 | 外装材 | 1975~1990 |
33 | 石綿含有押出成形セメント板 | レベル3 | 外装材 | 1970~2004 |
34 | 石綿含有スレート波板・大波 | レベル3 | 屋根、外壁 | 1931~2004 |
35 | 石綿含有スレート波板・小波 | レベル3 | 屋根、外壁 | 1918~2004 |
36 | 石綿含有スレート波板・その他 | レベル3 | 屋根、外壁 | 1930~2004 |
37 | 石綿含有住宅屋根用化粧スレート | レベル3 | 屋根材 | 1961~2004 |
38 | 石綿含有ルーフィング | レベル3 | 屋根材 | 1937~1987 |
39 | 石綿セメント円筒 | レベル3 | 煙突材 | 1937~2004 |
40 | 石綿セメント管 | レベル3 | 設備配管 | ~1985 |
41 | 石綿発泡体 | レベル3 | 建築壁部材 | 1973~2001 |
まとめ
「目で見るアスベスト建材」は、アスベスト含有建材の識別や調査に非常に有用な資料です。この資料を活用することで、以下のメリットがあります:
- 建築物のどこにアスベスト建材が使われていることが把握でき、効率的な調査計画を立てられる
- 製造時期の情報から、建築年代によるアスベスト使用の可能性を推測できる
- 視覚的な情報により、アスベスト含有建材の特徴を理解しやすい
アスベストの適切な管理と処理は、法律を遵守するために、また作業者や周辺住民の健康を守るために不可欠です。建築物の解体・改修工事を行う際は、必ずアスベスト調査を実施し、適切な対策を講じることが重要です。
アスベストに関する調査や対策でお困りの際は、アスベスト調査分析専門「アスベストバスターズ」にお気軽にお問い合わせください。私たち専門家チームが、安全かつ効果的なアスベスト対策をサポートいたします。