この記事の要点
- 2022年4月より、一定規模以上の解体・改修工事ではアスベスト事前調査結果の電子報告が義務化されました。
- 報告を怠ると最大30万円の罰金や工事遅延のリスクがあり、労働者の健康を守るためにも極めて重要です。
- 報告は原則「石綿事前調査結果報告システム」を使い、GビズIDでの電子申請が必要です。
- 報告書作成には有資格者による調査が必須で、建材ごとの調査結果を正確に記載することが求められます。
- 報告書や関連書類は、工事終了後3年間の保存義務があるため、適切な管理が必要です。
解体や改修工事を目前に控え、「アスベストの事前調査報告書」という新たな壁に直面し、頭を悩ませてはいませんか?「記載項目が多すぎて、何から手をつければいいのか分からない」「電子報告システムの使い方がさっぱりだ」「万が一、不備があって罰則を受けたり、工事が止まったりしたらどうしよう…」そんな不安や焦りを感じている現場管理者の方も少なくないでしょう。法改正により手続きは複雑化し、元請業者としての責任はますます重くなっています。この記事では、そんな多忙な現場責任者の方のために、アスベスト事前調査報告の義務化の基本から、報告書の具体的な書き方、GビズIDを使った電子申請の操作手順、そして現場で陥りがちなミスまで、実務に即して徹底的に解説します。この記事を最後まで読めば、法令に準拠した報告書をスムーズに提出し、安心して工事を進めるための知識がすべて手に入ります。

アスベスト事前調査報告の義務化とは?背景と重要性を解説
アスベスト(石綿)は、かつてその優れた断熱性や耐久性から多くの建材に使用されていましたが、現在ではその粉じんを吸い込むことで肺がんや中皮腫といった深刻な健康被害を引き起こすことが知られています。この見えない脅威から作業員や周辺住民を守るため、法規制は年々強化されています。特に、建築物の解体・改修工事におけるアスベスト対策は極めて重要であり、その中核をなすのが「事前調査結果の報告義務化」です。これは、工事に着手する前に、対象となる建築物にアスベスト含有建材が使用されているかどうかを専門家が調査し、その結果を行政に報告することを法的に義務付けた制度です。この制度の目的は、アスベストの有無を事前に把握し、適切な飛散防止措置を講じることで、工事に関わるすべての人々の安全を確保することにあります。単なる事務手続きではなく、人命を守るための不可欠なプロセスであるという認識を持つことが、すべての建設事業者にとっての第一歩となります。
2022年4月から始まった報告義務の概要
アスベスト対策をさらに徹底するため、大気汚染防止法および石綿障害予防規則が改正され、2022年4月1日からアスベスト事前調査結果の報告が義務化されました。この改正の最大の特徴は、一定規模以上の工事について、原則として厚生労働省が管轄する「石綿事前調査結果報告システム」を利用した電子報告が必須となった点です。これにより、国や自治体はアスベスト含有建材の情報を一元的に管理し、監督を強化できるようになりました。報告義務を負うのは、工事の元請業者または自主施工者です。アスベストの有無にかかわらず、対象となる工事では必ず報告が必要となります。この法改正は、これまで曖昧にされがちだったアスベスト調査の実施と結果の透明性を確保し、社会全体でアスベスト問題に取り組むための重要な一歩と言えるでしょう。
なぜ報告が重要なのか?労働者の健康被害を防ぐために
アスベスト事前調査結果の報告は、何よりもまず、解体・改修工事現場で働く労働者の命と健康を守るために不可欠です。アスベストの繊維は非常に細かく、目に見えません。事前調査と報告を怠り、アスベスト含有建材の存在に気づかずに工事を進めてしまえば、作業員は知らず知らずのうちに高濃度のアスベスト粉じんにばく露してしまいます。その健康被害は数十年という長い潜伏期間を経て現れるため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。適切な報告は、元請業者がアスベストの存在を確実に認識し、法律に基づいた適切な除去作業や飛散防止対策を計画・実行するための前提条件です。報告義務を遵守することは、企業の法的責任を果たすだけでなく、労働者に対する安全配慮義務を全うする上で極めて重要なのです。
報告義務の対象工事と怠った場合の罰則
アスベスト事前調査結果の報告義務は、すべての工事に一律で課せられるわけではありません。法律では、アスベスト飛散のリスクが比較的に高いと考えられる一定規模以上の工事を対象として定めています。現場管理者としては、まず自分たちが手掛ける工事がこの報告義務の対象となるのかを正確に判断することが不可欠です。もし対象であるにもかかわらず報告を怠った場合、厳しい罰則が科されるだけでなく、企業の信頼を失墜させる事態にもなりかねません。ここでは、具体的にどのような工事が報告対象となるのか、そして義務を怠った場合にどのようなリスクがあるのかを詳しく解説します。この知識は、法令遵守はもちろんのこと、工事を計画通りに進めるためのリスク管理においても非常に重要です。しっかりと内容を理解し、自社の工事管理体制に活かしてください。
報告が必要な工事の種類と規模一覧(解体・改修)
アスベスト事前調査結果の報告が必要となる工事は、建物の解体工事、改修工事、そして特定の工作物の解体・改修工事に大別されます。それぞれの工事で、報告義務の有無を判断する基準が異なりますので注意が必要です。以下の表に、報告が必要となる工事の具体的な条件をまとめました。
| 工事の種類 | 報告が必要となる条件 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 解体する部分の床面積の合計が80㎡以上 |
| 建築物の改修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) |
| 特定の工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) ※対象となる工作物:反応塔、加熱炉、ボイラー、圧力がま、配管設備、焼却設備、煙突、貯蔵設備、発電設備、変電設備、トンネルの天井板など |
重要なのは、これらの条件に一つでも該当すれば、アスベスト含有建材の有無にかかわらず報告義務が生じるという点です。例えば、床面積90㎡の木造住宅の解体工事では、アスベストがないと分かっていても報告は必須です。また、請負金額は材料費も含めた税込みの総額で判断します。
報告が不要なケースとは?
上記の条件に当てはまらない小規模な工事は、原則として行政への報告義務はありません。例えば、床面積70㎡の家屋の解体工事や、請負金額80万円の内装リフォームなどが該当します。また、釘を抜くだけ、ボルトを外すだけといった、建材に損傷を与えない「除去等」に該当しない作業も報告は不要です。しかし、ここで絶対に誤解してはならないのは、報告が不要であっても、アスベストの事前調査自体は原則としてすべての工事で実施する義務があるという点です。報告義務の有無と調査義務の有無は別であると、しっかりと認識しておく必要があります。
報告義務違反による罰則と工事遅延のリスク
事前調査結果の報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合、大気汚染防止法に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。しかし、現場管理者にとってそれ以上に深刻なリスクは、工事の遅延です。報告義務違反が発覚した場合、行政から工事の一時停止命令が出されることがあります。工事がストップすれば、工期の遅れはもちろん、追加の人件費や重機のリース費用など、経済的な損失は計り知れません。さらに、発注者や近隣住民からの信頼も失い、企業の評判に大きな傷がつくことになります。罰則の金額以上に、事業継続に関わる重大なリスクがあることを肝に銘じておくべきです。
アスベスト事前調査から報告完了までの5ステップ
アスベストの事前調査から行政への報告完了までには、踏むべき一連のステップがあります。このプロセスを正しく理解し、計画的に進めることが、スムーズな工事進行の鍵となります。特に現場管理者の方は、全体の流れを把握し、各ステップで誰が何をすべきかを明確にしておく必要があります。いきなり報告書を作成しようとしても、その前段階である適切な調査が行われていなければ意味がありません。ここでは、調査の計画段階から始まり、実際に調査を行い、報告書を作成して提出するまでの一連の流れを、大きく5つのステップに分けて分かりやすく解説します。このフローを頭に入れておくことで、抜け漏れのない確実なアスベスト対応が可能になります。
ステップ1:事前調査の計画と有資格者の確保
まず最初に行うべきは、調査全体の計画立案です。調査範囲、スケジュール、そして最も重要な「誰が調査を行うか」を決定します。2023年10月からは、アスベストの事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」などの専門資格を持つ者でなければ実施できなくなりました。自社に有資格者がいない場合は、速やかに外部の調査会社や専門家を確保する必要があります。この段階で信頼できるパートナーを見つけることが、後の工程をスムーズに進める上で非常に重要です。
ステップ2:設計図書等による書面調査と現地での目視調査
次に、有資格者が具体的な調査を開始します。まずは設計図書、仕様書、過去の修繕履歴などの書類を確認し、アスベスト含有の可能性がある建材が使われていないかを洗い出します(書面調査)。その後、実際に現地へ赴き、書面調査でリストアップした建材を中心に、壁、天井、床、配管の保温材などを目で見て確認し、劣化状況などをチェックします(目視調査)。この二つの調査で、アスベスト含有の有無を判断していきます。
ステップ3:分析調査(必要な場合)
書面調査や目視調査だけではアスベスト含有の有無が判断できない建材があった場合、その建材の一部を採取(サンプリング)し、専門の分析機関に送って分析を依頼します(分析調査)。分析によって、アスベストの種類や含有率が科学的に明らかになります。この分析結果は、報告書を作成する上で極めて重要な根拠となります。分析には時間と費用がかかるため、早めに判断し、手配することが肝心です。
ステップ4:調査結果の記録と報告書作成
すべての調査(書面、目視、必要であれば分析)が完了したら、その結果を定められた様式に従って記録し、報告書を作成します。調査を行った建材の種類、場所、調査方法、アスベストの有無の判断根拠などを、誰が見ても分かるように正確に記載する必要があります。特に、分析調査を行った場合は、分析機関が発行した報告書を添付します。この報告書が、行政へ提出する正式な書類となります。
ステップ5:報告システムまたは窓口への提出
完成した報告書は、原則として「石綿事前調査結果報告システム」を通じて電子的に提出します。このシステムを利用するには、事前に「GビズID」の取得が必要です。システム上で必要事項を入力し、作成した報告書や分析結果報告書などの関連書類をアップロードして申請します。やむを得ない場合は紙媒体での提出も可能ですが、その際は管轄の労働基準監督署と地方自治体の両方に提出する必要があり、手間がかかります。
【記入例付き】アスベスト事前調査報告書の書き方を項目別に徹底解説
アスベスト事前調査報告書の作成は、この制度対応における最大の山場です。定められた様式に沿って、正確かつ過不足なく情報を記載しなければなりません。一つの記入漏れや間違いが、報告の差し戻しや工事の遅延につながる可能性もあります。特に初めて報告書を作成する方にとっては、専門用語や細かい記載ルールに戸惑うことも多いでしょう。しかし、各項目が何を意味し、何を記載すべきかを一つひとつ理解していけば、決して難しい作業ではありません。このセクションでは、報告書の様式(様式第1号)を基に、特に重要ないくつかの項目を取り上げ、具体的な記入例を交えながら、誰にでも分かるように徹底的に解説していきます。現場でよくある疑問や、つまずきやすいポイントにも触れていきますので、ぜひお手元に様式をご用意いただき、照らし合わせながら読み進めてください。このセッションを終える頃には、自信を持って報告書作成に取り組めるようになっているはずです。
報告書の様式(様式第1号)の入手方法
アスベスト事前調査結果報告書の正式な様式は「様式第1号」と呼ばれています。この様式は、厚生労働省のウェブサイト内にある「石綿総合情報ポータルサイト」から、Excel形式やPDF形式で誰でも無料でダウンロードできます。常に最新の様式を使用するように心がけましょう。
厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」内の様式掲載ページへのリンク
項目1:基本情報(工事名称、場所、発注者情報など)の書き方
報告書の冒頭部分では、工事を特定するための基本情報を記載します。ここでのポイントは、誰が見てもどの工事のことか明確に分かるように、正式名称で正確に記入することです。
- 工事の名称:「〇〇ビル解体工事」「△△邸内装改修工事」など、契約書に記載されている正式名称を記入します。
- 工事の場所:住居表示(〇県〇市〇町〇-〇-〇)を正確に記載します。ビル名や部屋番号まで詳しく記入しましょう。
- 発注者・元請業者:それぞれの法人名(または個人名)、所在地、電話番号を記載します。法人の場合は、代表者の役職と氏名も忘れずに記入してください。
【記入例】
工事の名称: ABC商事本社ビル 3階オフィスリニューアル工事
工事の場所: 東京都千代田区丸の内1-2-3 ABC商事本社ビル 3階
発注者: 東京都千代田区丸の内1-2-3 ABC商事株式会社 代表取締役 鈴木 一郎
元請業者: 東京都中央区八重洲4-5-6 株式会社XYZ建設 代表取締役 田中 太郎
項目2:調査対象範囲と調査方法の記載ポイント
この項目では、今回の事前調査が工事対象範囲のどこまでをカバーしているのかを明確にします。後々のトラブルを避けるためにも、具体的に記載することが重要です。
- 調査対象の範囲:「3階オフィスフロアの内装(壁、天井、床)」「建物全体の解体範囲」のように、調査したエリアを具体的に記述します。図面や写真などを添付して、範囲を視覚的に示すとより分かりやすくなります。
- 調査方法:実施した調査方法にチェックを入れます。「設計図書等の書面調査」「現地での目視による調査」は必須です。分析を行った場合は「分析による調査」にもチェックを入れます。
特に改修工事の場合、工事範囲外は調査していないことを明記するなど、調査の境界線をはっきりさせることが、責任範囲を明確にする上で大切です。
項目3:調査終了年月日と調査者情報の正確な記入
調査の信頼性を担保する上で、調査者情報は非常に重要な項目です。
- 調査終了年月日:書面調査、目視調査、分析調査(実施した場合)のすべてが完了した日付を記入します。
- 調査者の氏名・所属:実際に調査を行った有資格者の氏名と、その人が所属する会社名を記載します。
- 調査者の資格:「一般建築物石綿含有建材調査者」「特定建築物石綿含有建材調査者」など、保有している資格の種類を正確に記載し、資格者証の登録番号も併記します。この番号に誤りがあると報告書が無効になる可能性もあるため、資格者証で正確に確認してください。
2023年10月1日以降は、有資格者による調査が義務付けられているため、この欄は報告書の有効性を左右する生命線となります。
項目4:建材ごとの調査結果一覧(最重要項目)の書き方
ここが報告書の中で最も核心となる部分です。調査対象範囲にあった建材一つひとつについて、調査結果を一覧表形式で記載します。
記載すべき主な内容は以下の通りです。
- 建材の種類:「天井材(岩綿吸音板)」「壁材(けい酸カルシウム板第1種)」「床材(ビニル床タイル)」など、具体的な建材名を記入します。
- 調査方法:その建材に対してどの方法で調査したか(書面・目視・分析)を明記します。
- アスベスト含有の有無:「有り」「無し」「みなし」のいずれかを記載します。「みなし」とは、分析はしていないが、法律に基づきアスベストが有るものとして扱う措置のことです。
- 判断の根拠:なぜそのように判断したのか、理由を具体的に書きます。
- 「無し」の場合:「設計図書で非含有建材であることを確認」「分析結果報告書(報告書番号〇〇)に基づき不検出」など。
- 「有り」の場合:「分析結果報告書(報告書番号△△)に基づきクリソタイルを3%含有」など。
- 「みなし」の場合:「設計図書等で含有の有無を判断できなかったため、石綿則第3条に基づき石綿含有ありとみなした」など。
この一覧表が、後の除去作業の計画や費用の根拠となるため、最大限の注意を払って正確に作成する必要があります。
項目5:アスベスト「有り」の場合の措置内容
調査の結果、アスベスト含有建材が「有り」または「みなし」と判断された場合に記載する項目です。その建材に対して、どのような措置を講じる予定かを簡潔に記述します。
主な措置の種類は以下の通りです。
- 除去:アスベスト含有建材を完全に取り除く作業。
- 封じ込め:建材の表面を薬剤などで固め、アスベストが飛散しないようにする措置。
- 囲い込み:建材の周りを板などで完全に覆い、アスベストを隔離する措置。
例えば、「労働安全衛生法及び大気汚染防止法に定められた措置を講じ、レベル3建材として除去する」といったように、適用する法令と具体的な作業内容を記載します。
GビズIDで簡単申請!石綿事前調査結果報告システムの使い方
2022年4月から原則必須となったアスベスト事前調査結果の電子報告。その窓口となるのが、厚生労働省が提供する「石綿事前調査結果報告システム」です。最初は「なんだか難しそう…」と敬遠してしまうかもしれませんが、一度使い方を覚えてしまえば、役所に出向く手間が省け、24時間いつでも申請できるなど、多くのメリットがあります。このシステムを使いこなすことが、今後の建設業界では必須のスキルと言えるでしょう。このセクションでは、システムの利用に不可欠な「GビズID」の取得方法から、実際のログイン、報告書の入力、そして提出完了までの具体的な操作手順を分かりやすく解説します。紙媒体での提出方法についても触れますが、まずはこの便利な電子報告システムをマスターすることを目指しましょう。多忙な現場管理者の方々の事務作業を、きっと大幅に効率化してくれるはずです。
提出前の準備:GビズIDの取得と必要書類
石綿事前調査結果報告システムを利用するためには、まず「GビズID」のアカウントが必要です。GビズIDとは、一つのIDとパスワードで様々な行政サービスにログインできる法人・個人事業主向けの共通認証システムです。
- GビズIDの取得:「gBizIDプライム」という種類のアカウントを作成します。公式サイトから申請書を作成し、印鑑証明書などと共に郵送で申請します。審査には2〜3週間程度かかる場合があるため、工事計画が持ち上がったら、できるだけ早く申請手続きを始めることを強くお勧めします。
- 必要書類の準備:システムで報告する際に、以下の書類をPDFなどの電子ファイルで準備しておくとスムーズです。
- 作成した事前調査結果報告書(様式第1号)
- 分析調査を行った場合は、分析結果報告書の写し
- 工事範囲を示す図面や現場写真
- 調査者の資格者証の写し
【画像で解説】ログインから報告書入力までの操作手順
ここでは、実際の操作画面をイメージしながら手順を解説します。
- ログイン:石綿事前調査結果報告システムの公式サイトにアクセスし、トップページにある「ログイン」ボタンをクリックします。GビズIDのログイン画面に遷移するので、取得したIDとパスワードを入力してログインします。
- 新規報告の作成:ログイン後のマイページ画面で、「事前調査結果報告を新規作成する」といったボタンをクリックします。
- 基本情報の入力:画面の指示に従い、報告書の項目1で解説したような「工事名称」「工事場所」「発注者情報」「元請業者情報」などを入力フォームに直接打ち込んでいきます。法人番号なども必要になる場合があります。
- 調査結果の入力:次に、調査結果に関する情報を入力します。「調査終了年月日」や「調査者の情報」を記入し、調査方法(書面、目視、分析)にチェックを入れます。
- 建材ごとの結果登録:報告書で最も重要な「建材ごとの調査結果」を入力します。システム上では、「建材を追加」のようなボタンを押し、建材一つひとつについて「建材の種類」「アスベストの有無」「判断根拠」などを登録していく形式が一般的です。
- 書類のアップロード:最後に、準備しておいた報告書(様式第1号)のPDFファイルや、分析結果報告書、図面などをアップロードします。画面の「ファイルを選択」ボタンから、該当するファイルを選んで添付します。
入力項目は報告書の様式に準じているため、手元に完成した報告書を置いておけば、迷わず入力できるでしょう。
提出完了までの流れと受付状況の確認方法
すべての入力とファイルのアップロードが完了したら、入力内容に間違いがないか最終確認を行います。問題がなければ、「提出」や「申請」といったボタンをクリックします。これで電子報告は完了です。提出後、システム上のステータスが「申請中」や「受付済み」といった表示に変わります。自治体や労働基準監督署の担当者が内容を確認し、不備がなければ正式に受理されます。不備があった場合は、システムを通じて差し戻しの通知が来ることがあるため、提出後も定期的にシステムにログインして受付状況を確認することをお勧めします。
紙媒体での提出方法と注意点
インターネット環境がないなど、やむを得ない事情がある場合は、紙媒体での提出も認められています。その場合、ダウンロードした報告書様式に手書きまたはPCで記入・印刷し、必要書類を添付して提出します。ただし、電子報告と大きく異なる注意点があります。それは、管轄の「労働基準監督署」と「地方自治体(都道府県や市など)」の両方に、それぞれ同じものを提出する必要があるという点です。提出先を間違えたり、片方にしか提出しなかったりすると、報告義務を果たしたことにならないため、十分な注意が必要です。手間や確実性を考えると、可能な限り電子報告システムの利用が推奨されます。
現場のプロが教える!報告書作成・提出時のよくある間違いと注意点
法律やマニュアルを読んで理屈は分かっていても、いざ実務となると、思わぬところでつまずいてしまうのが現場というものです。アスベストの報告書作成・提出も例外ではありません。特に経験の浅い担当者の方は、後から「ああしておけばよかった…」と後悔するような、典型的なミスを犯しがちです。これらのミスは、単なる手戻りを生むだけでなく、最悪の場合、法令違反や工事の遅延といった深刻な事態を引き起こしかねません。このセクションでは、長年アスベスト調査の現場に携わってきた専門家の視点から、多くの担当者が陥りがちな「よくある間違い」を具体的にピックアップし、その対策を伝授します。教科書的な解説ではなく、現場のリアルな声としてお聞きください。ここで紹介するポイントを事前に知っておくだけで、多くのトラブルを未然に防ぐことができるはずです。
つまずきやすいポイント1:調査範囲の誤認
最も多く、そして後々のトラブルになりやすいのが、調査範囲の誤認です。例えば、ビルの内装改修工事で、契約書にある「主たる工事範囲」だけを調査し、報告したとします。しかし、工事の過程で、すぐ隣接する壁や天井裏に手を入れる必要が出てきた場合、その部分は未調査ということになってしまいます。改修工事では、工事対象の建材だけでなく、その周辺で影響が及ぶ可能性のある範囲まで含めて調査対象とすることが鉄則です。事前に施工業者と綿密に打ち合わせを行い、どこまで手を入れる可能性があるのかを正確に把握し、調査範囲を決定しましょう。
つまずきやすいポイント2:分析報告書の添付漏れ
これは非常に単純ですが、驚くほど多いミスです。報告書本体の「建材ごとの調査結果一覧」で、アスベスト「有り」または「無し」の判断根拠として「分析による」と記載したにもかかわらず、その根拠となる分析機関発行の「分析結果報告書」のPDFを添付し忘れてしまうケースです。これでは、報告の客観的な裏付けがないため、ほぼ100%の確率で行政から差し戻しや問い合わせが来ます。提出前に、判断根拠と添付書類に矛盾がないか、指差し確認するくらいの慎重さが必要です。
つまずきやすいポイント3:みなし措置の安易な選択
書面や目視で判断がつかない建材について、分析調査を行わずに「アスベスト含有ありとみなす(みなし措置)」という選択は、法律上認められています。これにより、分析の時間と費用を節約できるメリットがあります。しかし、これを安易に選択するのは危険です。もしその建材が広範囲に使われていた場合、実際にはアスベストが含まれていなくても、法律上は「アスベスト有り」として、厳重なばく露防止対策や特別な処分費用が必要になります。結果的に、分析費用をはるかに上回る高額な対策費用が発生する可能性があります。みなし措置を選択する際は、対策費用の増大リスクを十分に考慮した上で判断すべきです。
アスベストの有無が不明な場合の対処法
設計図書もなく、見た目でも判断がつかない。そんな「有無が不明な建材」に直面した場合、法律上の選択肢は2つしかありません。一つは、前述の通り「みなし措置」としてアスベストが有るものとして扱うこと。もう一つは、建材を採取して「分析調査」にかけることです。どちらを選択すべきか迷った場合は、必ず専門の調査会社に相談してください。プロは建材の種類や年代からある程度の推定ができますし、分析すべきか、みなしで進めるべきかの費用対効果についても的確なアドバイスをしてくれます。自己判断で「たぶん大丈夫だろう」と進めることだけは絶対に避けてください。
調査結果「アスベスト有り」「みなし」の場合の対応と報告後の義務
事前調査の結果、アスベスト含有建材が「有り」または「みなし」と判断され、その報告を無事に終えたとしても、それで終わりではありません。むしろ、ここからがアスベスト対策の本番です。報告は、あくまで安全な工事を行うためのスタートラインに立ったに過ぎません。報告内容に基づき、法律で定められた厳格な措置を講じ、作業員の安全と周辺環境への配慮を徹底する義務が元請業者には課せられます。また、一連の工事が完了した後にも、作成した報告書や関連書類を適切に保管する義務が続きます。ここでは、報告後に具体的に何をすべきか、そしてどのような義務が継続するのかについて解説します。これらの事後対応を怠ると、たとえ報告を済ませていても、別の法律違反に問われる可能性があるため、最後まで気を抜かずに対応しましょう。
アスベスト含有建材があった場合の必要な措置
調査でアスベスト含有が判明した場合、元請業者は工事着手前に以下の対応を取る必要があります。
- 作業計画の作成:アスベストの除去方法、作業員の安全対策、飛散防止措置、廃棄物の処理方法などを具体的に定めた作業計画を作成します。
- 労働基準監督署への届出:除去するアスベストのレベル(発じん性の高さ)に応じて、工事開始の14日前までに「工事計画届」や「特定粉じん排出等作業実施届出書」などを労働基準監督署や自治体に提出する必要があります。
- 作業前の掲示:工事現場の見やすい場所に、アスベスト除去工事であることや、作業の指揮者、保護具の使用などを記載した掲示板を設置します。
- 隔離・湿潤化:作業場所をビニールシートなどで隔離し、負圧除じん機を設置します。また、除去する建材には湿潤化剤を散布し、粉じんの飛散を抑制します。
これらの措置は、石綿障害予防規則などの法律で細かく定められており、遵守が絶対条件となります。
報告書と関連書類の3年間保存義務について
アスベストの事前調査に関する一連の書類は、工事が完了した後もすぐに処分してはいけません。法律により、元請業者は以下の書類を工事終了日から3年間保存する義務があります。
- 事前調査の結果が記録された書類(報告書本体を含む)
- 設計図書や写真など、調査の根拠となった資料
- 分析調査を行った場合は、その分析結果報告書
これらの書類は、後に行政の立ち入り調査があった場合などに、適正に調査・工事が行われたことを証明する重要な証拠となります。電子データでの保存も認められていますが、いつでも閲覧・印刷できる状態で管理しておく必要があります。工事ごとにファイルを作成し、確実に保管する体制を社内で構築しておくことが重要です。この保存義務を怠った場合も罰則の対象となる可能性があります。
アスベスト調査結果報告書の読み方とチェックポイント
元請業者の現場管理者として、自社で報告書を作成・提出するだけでなく、下請けの調査会社から提出された調査結果報告書の内容を正しく理解し、その妥当性をチェックする能力も求められます。報告書に書かれている専門的な内容を鵜呑みにするのではなく、「本当にこの内容で大丈夫か?」とクリティカルな視点で確認することが、元請業者としての責任を果たす上で不可欠です。もし報告書に不備があれば、その責任は最終的に元請業者が負うことになるからです。このセクションでは、特に専門性が高い「分析結果報告書」で最低限確認すべき項目と、調査会社から報告書一式を受け取った際に、元請業者の担当者としてチェックすべき事項をリストアップします。このポイントを押さえることで、報告書の品質を見極め、潜在的なリスクを回避することができます。
分析結果報告書で確認すべき主要項目
調査会社から提出される書類の中に、分析機関が発行した「分析結果報告書」が含まれている場合、以下の項目は必ず確認しましょう。
- 試料情報:採取場所や建材名が、事前調査報告書に記載されている内容と一致しているか。
- 分析方法:JIS A 1481シリーズなど、公定法に定められた適切な方法で分析されているか。
- アスベストの種類と含有率:「クリソタイル」「アモサイト」といったアスベストの種類が明記されているか。また、その含有率(重量パーセント濃度)が記載されているか。0.1%を超えて含まれている場合、法的に「アスベスト含有建材」として扱われます。
- 分析機関の情報:信頼できる分析機関であるか、認定機関のロゴなどがあるかを確認します。
これらの情報が不明瞭な場合や、事前調査報告書の内容と食い違う場合は、すぐに調査会社に説明を求めるべきです。
報告書を受け取った際の元請業者の確認事項
調査会社から事前調査報告書一式を受け取ったら、以下のチェックリストに沿って内容を確認しましょう。
- 調査者の資格は明記されているか?:報告書に調査者の氏名だけでなく、「建築物石綿含有建材調査者」などの資格と登録番号が正しく記載されているか。
- 調査範囲は工事範囲と一致しているか?:報告書に記載された調査対象範囲が、これから行う工事の範囲をすべてカバーしているか。ズレがないか図面と照らし合わせて確認します。
- 判断根拠は明確か?:建材ごとのアスベスト有無の判断について、「設計図書で確認」「分析結果による」など、客観的で具体的な根拠が示されているか。「不明」や曖昧な表現が多くないか。
- 必要な添付書類は揃っているか?:分析調査を行った場合は分析結果報告書が、また、調査範囲を示す図面や写真などが漏れなく添付されているか。
これらの確認作業を行うことで、不備のある報告書をそのまま行政に提出してしまうリスクを大幅に減らすことができます。
報告書作成は専門家へ依頼すべき?業者選びの3つのポイント
ここまで解説してきたように、アスベストの事前調査から報告書作成、提出までの一連のプロセスは、専門的な知識と多大な手間を要します。特に、複数の現場を抱える多忙な現場管理者の方にとっては、これらの事務作業が大きな負担となることも事実です。「自社で対応するにはリソースが足りない」「法改正の内容が複雑で、ミスなくやり遂げる自信がない」と感じた場合、一連の業務を専門の調査会社に委託するのも賢明な選択肢です。専門家に任せることで、法令を確実に遵守できるだけでなく、本来の業務である工事管理に集中することができます。しかし、いざ業者を探そうとしても、どこに頼めば良いのか迷ってしまうかもしれません。ここでは、信頼できるパートナーを選ぶために、最低限確認すべき3つの重要なポイントを解説します。
ポイント1:有資格者の在籍と調査実績
まず最も重要なのが、その業者に「建築物石綿含有建材調査者」などの法的に認められた有資格者が在籍しているかどうかです。これは絶対条件です。その上で、これまでどのような建物の調査を手がけてきたか、実績を確認しましょう。自社が手掛ける工事(例:大規模ビル、木造戸建て、工場など)と類似した物件の調査経験が豊富な業者であれば、より安心して任せることができます。業者のウェブサイトで実績を確認したり、直接問い合わせてみることをお勧めします。
当社でも「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者が在籍し、オフィスビルや工場、木造戸建てなど、さまざまな建物の事前調査を行ってきました。実際の現場写真や調査の進め方、報告書イメージなどを事例ブログで公開していますので、「どんな調査をしてくれるのか」を具体的にイメージしていただけると思います。
よろしければ、下記の調査事例もご覧ください。お問い合わせ前の情報収集としても、ご検討中の計画の参考になるはずです。
https://asbestos-busters.com/category/case/
ポイント2:報告書作成から提出代行までのサポート範囲
業者によって、提供するサービスの範囲は様々です。単に現地調査と分析を行うだけの業者もいれば、その後の報告書作成、さらにはGビズIDを使った電子報告システムの提出代行まで、一気通貫でサポートしてくれる業者もいます。自社がどこまでの業務をアウトソースしたいのかを明確にし、そのニーズに応えてくれる業者を選びましょう。特に電子報告に不慣れな場合は、提出代行まで行ってくれる業者を選ぶと、大幅な負担軽減につながります。
ポイント3:明確な料金体系と見積もり
アスベスト調査・報告にかかる費用は、建物の規模や構造、分析する検体数などによって大きく変動します。業者に問い合わせる際は、必ず事前に詳細な見積もりを取りましょう。その際、単に総額を見るだけでなく、「調査費用」「分析費用(1検体あたり)」「報告書作成費用」「提出代行手数料」といった内訳が明確に示されているかを確認することが重要です。複数の業者から相見積もりを取り、料金とサービス内容を比較検討することで、コストパフォーマンスの高い、信頼できる業者を見つけることができます。
アスベストバスターズでは、「調査費用」「分析費用(1検体あたり)」「報告書作成費用」「提出代行手数料」といった内訳をできるだけ分かりやすく整理し、料金ページで公開しています。建物の規模や用途別の目安費用も記載しているため、「この規模の物件だとどのくらいかかりそうか」を事前にイメージしていただきやすくなっています。
図面や物件情報をご共有いただければ、より具体的なお見積もりも作成可能です。「まずは概算だけ知りたい」「他社見積もりとの比較材料がほしい」といったご相談も歓迎ですので、迷われている段階でもお気軽にお問い合わせください。
料金の考え方や目安費用については、こちらの料金ページで詳しくご説明しています。
https://asbestos-busters.com/pricing/
まとめ
本記事では、2022年4月から義務化されたアスベスト事前調査結果の報告について、現場管理者の方が実務で直面するであろうあらゆる側面に焦点を当て、網羅的に解説してきました。報告義務の背景にある労働者の安全確保という重要性から、対象となる工事の具体的な条件、罰則のリスク、そして調査から報告完了までの5つのステップまで、全体像を掴んでいただけたかと思います。特に、報告書作成の核心である「項目別の書き方」や、多くの人がつまずきやすい「電子報告システムの使い方」については、具体的な手順を追って詳述しました。さらに、現場のプロだからこそ語れる「よくある間違い」や、報告後の対応、信頼できる専門業者の選び方まで言及しています。この報告制度は複雑に見えますが、一つひとつのステップを確実に踏んでいけば、決して乗り越えられない壁ではありません。この記事が、皆様の不安を解消し、法令を遵守した安全な工事をスムーズに進めるための一助となれば幸いです。
アスベスト報告書に関するよくあるご質問(FAQ)
GビズIDの取得にはどのくらい時間がかかりますか?
GビズID(gBizIDプライム)の取得には、申請書を郵送してから通常2〜3週間程度の審査期間が必要です。繁忙期にはさらに時間がかかる可能性もあります。アスベスト報告が必要な工事の計画が立った段階で、できるだけ早く申請手続きを開始することをお勧めします。工事の直前になって慌てないよう、事前の準備が重要です。
アスベストの事前調査は誰でもできますか?
いいえ、誰でもできるわけではありません。2023年10月1日以降、建築物の解体・改修工事におけるアスベスト事前調査は、「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ専門家が実施することが法律で義務付けられています。資格を持たない人が調査を行った場合、その報告は無効となり、法令違反となりますので、必ず有資格者に依頼してください。
報告を忘れて工事を始めてしまいました。どうすればいいですか?
万が一、報告をせずに工事に着手してしまった場合は、直ちに工事を中断し、速やかに管轄の労働基準監督署および地方自治体に連絡し、指示を仰いでください。正直に状況を報告し、事後であっても速やかに調査と報告を行う必要があります。隠蔽することは最も避けるべき対応であり、より重い罰則や行政処分につながる可能性があります。
非常に小規模な内装リフォームでも報告は必要ですか?
請負金額が100万円(税込)未満の改修工事であれば、行政への「報告」義務はありません。しかし、重要なのは、工事の規模や金額にかかわらず、アスベストの「事前調査」自体は原則としてすべての工事で実施する義務があるという点です。調査の結果、アスベストがなかったとしても、その調査記録を作成し、3年間保存する必要がありますのでご注意ください。





